32 海へ漕ぎ出す vers.2 ページ32
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「ジョンウさん、苦しそう」
「苦しいよ」
「どうして？」
「…さぁ。あと少しで手に入りそうで、手を伸ばしたらそこに欲しいものはなかった、そんな感じ」
「恋愛の話？」
「かもね」
そっかー、ってうんうん頷く少年。
いい加減名前を教えてもらってもいい気がする。
僕は教えたのに。じゃないと呼べないから。僕は君の名前を知っているのに、たぶん。
「面白いこと教えてあげるよ」
「なに」
「ジョンウさん、左手を出して」
これから何が行われるか、分かる気がした。
素直に左手を差し出す。
ぐりんって手のひらを外に向けられて、予想していたから痛くない。
「この小指の下の線と、手のひらの太い線の間にある線の数が、死ぬまでに付き合う人の人数だって。つまりは、その本数番目に付き合った人と結婚するってこと。
…あれ、知ってた？」
「それ、誰から聞いた」
「小学校の先生」
「ベッキョン先生？」
なんだぁって、少年もといジェノくんが僕の手を握ったまま振り下ろした。
「ジョンウさんもベッキョン先生に教えてもらったの？」
「まあね」
「じゃあ、俺と同じ小学校じゃん。
あれ、ということはもしかして俺のヌナを知ってる？」
「…知ってるよ。
君のことも、君のヌナから聞いたことがあるよ
イジェノくん」
てぇばっ、て目を丸くしたジェノくん。
Aちゃんから聞いていたのは名前と今年から高校生だってことくらいだったけど、滑り台の上から眺めているものが僕が眺めていたそれと同じだったから。
「うわぁ、ヌナの知り合いにヌナの部屋を教えちゃった。どうしよう。
ていうか、もしかして知ってた？
そんなわけないか、ヌナ、そんなことまで教える関係の人いないもんね」
「じゃあジェノくんのために知らなかった、っていうことにしとこうか」
「知ってたの！？」
うぇえ？なんで？って目を真ん丸くしてる。
Aちゃん、めっちゃナメられてるよ…
ジェノくん、君のヌナは罪深いよね。
あの日から僕の心を掴んで離さないんだから。
ほとんど初対面だった僕に、ああやって接したクセに、それは本当にAちゃんだったの？って今は思う。
何年そばで見つめていても、分かりそうにない。
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作者名：mawol | 作成日時：2022年9月2日 19時
