守護天使、ストーカー、あるいは。 (ページ31)

今日:14 hit、昨日:16 hit、合計:75,035 hit

31 海へ漕ぎ出す vers.2 ページ31

・

「ここからウチがよく見えるんだ。
ほら、あの黄色い壁の、分かる？
あ、夜だからわかんないか。
1階の電気が消えるのを待ってから帰るの。」
「…どうして？」
「さぁ。なんとなく。
俺がこうして夜中出歩いてても母さんは俺を叱ることはないけど、…逆にそれが嫌なのかな」
「お母さんにかまって欲しい？」
「かも。」
「そっか」

夏の夜独特の空気自体がしっとり水分を含んで重たくなったような、そのままの感じの静寂。
この公園は地面自体に盛土がされていて、ジャングルジムと滑り台はさらに小高い丘のように作られた場所に立っている。
ジャングルジムからの夜景はなかなかで、といっても住宅街なので目を見張るほどではないが、これだけたくさんの人が暮らしているんだな、という実感は持てるくらい。
たくさんの家の灯りが煌々とするなかで、暗くて家の壁の色なんてよく分からないけど、少年の家がどれなのか、僕には心当たりがあった。

「ヌナが、母さんと喧嘩したとき、よくここで夜中まで隠れてた。今は家を出て、いないけど。
ヌナの部屋が2階の左側の窓のところなんだ。
あ、分からないんだったね」
「君は？」
「俺のはその隣の。
ここから家が見えるって教えてくれたのはヌナだった。母さんを怒らせて怖がって出ていったヌナを迎えに来たときに」

少年は懐かしそうに笑った。
笑うと細くなる目を見て胸がぎゅうっと締め付けられる。
少年よ。君のその笑顔によく似たあの笑顔を最後に見たのはいつだったか。
ソジャニの言うことにも一理ある。僕的には、あと少し待ったところでAちゃんに想いを伝えられたら完璧だったのに、どうしていきなりこんなことに。
考えてもわからなくて、小学生の頃からこんなに長いときを一緒に過ごして来たのに、僕のエゴでAちゃんを閉じ込めていたせいで、僕の手の届く範囲に、A ちゃんが心の内を話せるような相手がいない。

・