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「やっぱり来ないね。」
「Aが来たから、あの人が来てくれたら、全員揃ったのになぁ。」
わたしと彼を、同じように扱っているようにも取れる言葉のチョイスに、居心地が悪くなる。
来ない、のでは無く、そもそも、来れない、のだろう。
「忙しいのかな。」
「忙しい、なんてもんじゃないでしょ。
わたしのとこ、団長の娘さんが、高校生なのね？
NCTにハマってるらしくて。
あ、君はメンバーの彼と同じ高校じゃないか。
サインとか、持ってないのかって。
…持ってないっつーの。」
「いるよー、わたしの身近にも。NCTのファン。」
だれだれ、と盛り上がっている友人たちの話は、ぼーっとしているうちに水の中で聞いているみたいに不明瞭になっていった。
みんなは、曲、聞いたりしないのかな。
アイドルだから、って別で考えてるのかな。
わたしも、アイドルってだけだったら、聞いてなかったのかな。
あのとき、病気してなかったら、
「…は、Aは？どうなの？」
相変わらずぐるぐるの思考がパッと散った。
「え？」
「あーだめだ。この子人の話聞かないから。」
「ほら、…ムン・テイル。
A、専攻違うのに、仲良かったじゃん。」
「…仲良かった？」
「良かったでしょ！
付き合ってるのか、って噂もあったじゃん！」
「…あったっけ？」
たしかに、その言葉は間違っていない。
高校時代、性別関係なしに、一番長く一緒に過ごして、一番わたしのことを理解してくれていたのは、今となってはアイドルの、ムン・テイルその人で。
彼とはそういう関係ではなかったけど、よく、聞かれたし、囃された。
今、住む世界が、ううん、
…生きている世界が、見ている世界が、違いすぎて。
そんなことがあったなんて。
彼が、わたしの隣で、わたしに、微笑みを向けていたことさえも。
すっかり忘れていた。
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作者名：mawol | 作成日時：2022年2月17日 2時
