眼 - 3 ページ3
息を潜め、日常の水面下に潜んでいた何かのきっかけ、不思議な力に惹かれて、僕は久しぶりに麻衣に会いに407号室を訪れた。どうしても彼女が発していた雰囲気の端々を忘れることができなかった。あの時のままでいて欲しい。そんな淡い期待を抱いて407号室へ向かった。
3年半の月日が、彼女をここまで変えているとは思わなかった。彼女は相変わらず暗い部屋を好み、昼間だというのにカーテンも開けずに本を読んでいた。が、表情は陰気くさく曇っておらず、目に見えて表情が豊かになっていた。彼女が僕に気が付き、ぱあっと顔を綻ばせるまでの間、余りにも変わった彼女の姿に唖然としていた。が、同時になんとも言えぬ虚無感と甘い毒が僕の全身を一瞬で蝕んだ。
僕はそれから、彼女に会いに407号室へ日参するようになった。今思えば、僕は彼女に恋をしてしまっていたのかもしれない。彼女は外が明るい間も起きているようになっていて、本で得た沢山の知識を僕に嬉しそうに話してくれる姿がなんとも愛らしかった。僕もまたそれに応えるように、此処へ訪れなかった数年の空白を埋めるようにたくさんの出来事を話した。高校に受かった時の話や、そこで習った難しい理論だとか、学校に猫が迷い込んだ話なんかも、とにかく沢山の出来事を麻衣に話した。
良くも悪くも時間は腐るほどあったし、その全てを彼女は快く聞いてくれた。ただただ、彼女がこれ以上変わっていかないようにしたかった。病院という狭いコミュニティの中で、人間一人と変わらず接していくのは容易だった。
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作者名:舞桜 | 作成日時:2018年6月8日 17時