真っ直ぐに恋して【煉獄杏寿郎】

106.私たちのこと ページ8

「A入っても良いか？」

就寝前、杏寿郎さんのそんな声が部屋の外から聞こえた。

「どうぞ」と声を掛けると開いた襖から彼が部屋に入ってくる。

久しぶりの二人きりの時間の合図に自然と胸が高鳴る。


私のすぐ側に腰掛けた彼。

お互い向かい合わせで見つめ合うけれど、久しぶりだからなのか一言も話さない。

それに耐えきれなくなった私は口を開く。

「長期間、お疲れ様でした」

「あぁ！」

「怪我、しませんでしたか？」

「何ともない！」

杏寿郎さんは私の質問に答えると、そっと頬に触れてくる。


何となく、雰囲気を察して目を閉じると唇に柔らかくて温かいものが重ねられる。

直ぐに放してくれたので目を開けるとそのまま抱き寄せられた。


「杏寿郎さん？」

私の肩に顔を埋めて、ぎゅっと抱き締めながら彼が言う。

「やはり落ち着くな。暫く会えなかった分、ずっとAとこうしていたい気分だ」

いつもとは違って、囁くような落ち着いた声が耳元に響いて切なくなる。


私だって一緒だ。
ずっと、こうしていたい。


「私もですよ」

彼の背中に腕を回して私も抱き締め返す。


「今朝の事なんだが」

「今朝？」

聞き返すと「む。」と彼が唸る。

「俺だけ仲間外れの話だ」

体を少し放して私の顔を覗き込んでくる。
どうやらよっぽど気にしているようだ。

「あぁ、はい」

「今朝のあれだけでは手掛かりが少なくてな。少し大雑把だが、今から答えようと思う。いいか？」

問いかけられて少し身構える。
「はい」と答えると彼が推理を始めた。


「俺が知っていることで、君があの二人に話すことを考えてみた。まず甘露寺は俺も知らないことの方が多いので、検討が付かなかったが、逆に千寿郎は俺の事をよく知っている。何せ俺の弟だからな！」

「は、はい」

「千寿郎が知らないこと、となると答えは限られてくる…」


意外と鋭い推測に私は唾をのみ込む。


「君は、俺たちの事を話したんじゃないか？」

「…ぐ、具体的には？」

「ふむ。そこが分からない！何せAとは色々あったからな！俺と君が幼少期に実は会っていたことや、君が鬼に襲われた時のこと、まだ付き合う前に、とみさんに恋仲だと勘違いされたこともあったな！それから日中、道端で接吻の………」
「〜〜〜っ！！も、もうその辺でいいですっ！！」

ばっと彼の口を掌で押さえる。

これ以上、彼に話をさせるとまだまだ恥ずかしいあれこれが飛び出してきそうで堪えられそうにない。

107.答えるまで→←105.秘密

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す