真っ直ぐに恋して【煉獄杏寿郎】

111.付けられてる ページ13

心地よい風が吹く午前中。
私は千寿郎くんと共に買い物帰りの帰路に着いていた。


「今日は安く買えましたね！」

朝から買い出しに行くと今日は特売日だったらしく、野菜が安く手に入った。

「まぁ、お陰でお茶菓子を沢山買っちゃったけれど」

なんて二人で笑い合う。


「杏寿郎さん、もう帰ってきたかしら？」

「うーん、どうでしょう」

杏寿郎さんは任務で三日間、家を空けていた。

昨日、彼の鴉が午前中には帰ると連絡をくれたのだけれど、出掛ける時はまだ帰って来ていなかった。


暫く歩いていると千寿郎くんに「Aさん」と呼ばれる。

「少し寄り道していいですか？」

「え？…えぇ」


珍しい。

煉獄家に来てから何度も彼と買い出しに出掛けているけれど、そんな事を言われるのは初めてだ。

「どこに行くの？」

聞くと彼は私の手を引いて駆け足になる。

「こっちです」

角を曲がって行く千寿郎くんの背中を眺める。

「………。」

こうやって買い物の帰りに走るのは初めてじゃない。

少し嫌な予感がして「千寿郎くん」と声を掛ける。

「もしかして、………つけられてる？」


途端、振り向いた彼が大きく目を見開く。


「…Aさんっ………」

私の表情に何かを感じたらしい。

早足をやめて歩くと私の顔を覗き込む。


「思い当たることがあるんですか？」

心配そうに眉を歪めるその表情は杏寿郎さんそっくりだ。


「………今日が初めてじゃないの」

「え？」

「暫く何もなかったし、最初はたまたまだと思ってたんだけど…」

彼が焦り始める。

「あ、兄上には！？」

「言ってないの。…でも、千寿郎くんも付けられてるって感じたのなら、やっぱりそういうことよね………」

あまり気にしないようにしていたけれど、自覚した途端、怖くなってくる。

「とにかく！距離を取りながら急いで戻りましょう！！」

「えぇ」

ちらっと後ろを確認する。

いつもの人影はもう見えない。
大丈夫、このまま急いで帰れば………


そう思った時、目の前の角から現れた人物にどくりと心臓が跳ねる。

近くで顔を見たことはない。

けれど、服装や背格好からしてこの人だと分かった。


若い男だった。

どっ、と緊張が走って千寿郎くんの手を握る力が強くなる。

そんな私に、ぴくっと千寿郎くんが反応した。
彼も気付いた様だ。

お互いに何食わぬ顔ですれ違って行く。

先ほどの男が曲がってきた方とは反対方向に角を曲がると、逃げてしまいたい衝動から私は駆け出した。

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