92.約束の時間 ページ43
部屋に入ってからは手を繋いだまま、お互い一言も言葉を発せないでいた。
今朝から宣言されていた約束の時が訪れて、私の胸が煩く音を立て始める。
あれほど杏寿郎さんと過ごす時間が少なく感じて寂しかったのに、いざその時が来ると逃げ出してしまいたいほど緊張している。
「A」
呼ばれて顔をあげる。
「実を言うと、Aが寂しく思ってくれていたように、俺もまた君と過ごす時間が少ないと思っていた」
「えっ?杏寿郎さんも……?」
「あぁ!君と少しでも長く一緒に居たくてこの家に呼び寄せたのに、勿体ないことをしたと思っている」
私だけじゃなかったんだ…
そう思うと少し嬉しい。
すると手を繋いでいない方の手が伸びて来て、体ごと引き寄せられる。
気が付くと私は彼の膝の上で逞しい腕の中にすっぽり収まっていた。
横向けに座らされて、更にどきどきしながら見上げると杏寿郎さんと目が合う。
かっこ良くて優しい顔が微笑んでくる。
それだけで頬に熱が集まっていく。
固まって動けないでいると頬に手が添えられて、そっと彼の唇が私のものに重ねられた。
触れるだけで直ぐに離れるとそのまま見つめられる。
恥ずかしさに堪え切れなくて、ふいっと顔を逸らすと「ははは」と楽しそうな笑い声が聴こえてきた。
「か、からかわないでくださいっ…」
恐らく彼は私の反応を見て楽しんでいる。
「すまない!Aが愛らしくて!つい!」
そう言って頭を引き寄せられた。
顔を見られなくて済むのなら都合がいい、と考えて私もされるがまま彼の胸に頭を預ける。
それが心地よくて、暫くそのまま時間が過ぎた。
ふと、今朝巻いた腕の包帯が目に入ってそっと触れる。
本当は怪我をしないように気を付けて欲しい。
とか、言いたい。
でも仕事柄そう言うわけにはいかない。
寧ろこれぐらいで済んで良かった…
下手をすると命を落とす。
それが彼の選んだ道。
だから、私は小さな怪我では騒がないことに決めていた。
とは言え早く治って欲しいのもまた事実。
「あれからガーゼは代えました?」
ぽつりと聞くと「まだだ」と返事が返ってくる。
「じゃあ、新しい物を取ってきます」
「後でいい」
「ひゃっ」
彼の膝から立ち上がろうと腰をあげると、ぐいっと腰を引かれて私の体が彼の膝の上に戻る。
すっと伸びてきた手が私の顎に触れて上を向かされた。
「!」
ぎらっとした視線に捕まる。
“今はどこにも行くな”とでも言うかのような目だった。
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月見(プロフ) - 莉子さん» コメントありがとうございます!可愛い女の子の弟子が気になって嫉妬しちゃう夢主ちゃん。私もきっと妬いちゃうなと、思いながら書いてました!このあとの展開を楽しんで頂ければ嬉しいです(^^) (2021年1月27日 20時) (レス) id: 3e917b4f85 (このIDを非表示/違反報告)
莉子(プロフ) - またまたコメント失礼します!夢主ちゃんの気持ち分かる〜( ; ; )婚約者になっても一緒に居られる時間少な過ぎて、もっとラブラブして欲しいですねぇ!私も絶対甘露寺ちゃんに妬いちゃうと思う。。あんなに可愛いし笑二人の絡みがもっと欲しいです!( ´ ▽ ` ) (2021年1月27日 19時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
月見(プロフ) - 莉子さん» コメントありがとうございます!煉獄さんは簡単に意見や思いを曲げない人だと思ったので、一途になって貰いました!夢主ちゃんの変化に気付いて頂けて嬉しいです!彼女は何も告げずに煉獄さんと一度さよならしたことを後悔しているので、気持ちに素直になり始めてます! (2021年1月19日 20時) (レス) id: 3e917b4f85 (このIDを非表示/違反報告)
莉子(プロフ) - こんにちは^^この作品大好きで、煉獄さんがずっと一途に想っている設定が凄く合ってて、世界観にどっぷり浸かれちゃいます!なかなかすれ違いが長かったので、こうやって両想いになれて本当嬉しいです( ; ; )幸せ!夢主ちゃんも少し変わってきましたよね!ラブラブ (2021年1月19日 19時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
月見(プロフ) - 和葉さん» コメントありがとうございます!このあと二人がどうなっていくか、ぜひ楽しみにしていて下さい(^^) (2021年1月15日 19時) (レス) id: 3e917b4f85 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月見 | 作成日時:2021年1月3日 14時