90.待つ ページ41
「へ………?」
突然の事に瞬きを繰り返す私に、顔を離した彼が私を見つめて口を開く。
「よもや!そこまでAに寂しい思いをさせていたとは!」
「う…」
そうなのだけれど、声に出して言われると恥ずかしい。
思わず手で頬を押さえると、彼が優しく私の頭を撫でる。
「だが、嬉しい!Aはいつの間にか、それほどまでに俺を想ってくれていたんだな!」
その言葉に彼と初めて接吻した日のことを思い出す。
あの日は彼が私に嫉妬していた。
なんだか立場が逆になったみたい。
彼を見つめたまま恥ずかしくて黙り込んでいると「A」と優しく呼ばれる。
「俺はいま君を抱き締めたい!そして君に接吻がしたい!」
ごく真面目な顔で言うものだから、一瞬意味を理解できなかった。
「…っ!えっ!?い、今しましたよね!!?」
口付けられた頬を指差すと「唇にだ!」と恥ずかしげもなく言われる。
「今は任務から帰ったばかりで返り血も浴びている!そして、これから風呂に入って朝餉を食べたらいつも通り稽古だ!」
「そ、そうですね…?」
「だが、今晩は任務がない!だからそれまで待っていてくれ!」
「…?は、はい………」
困惑しながら返事をすると、彼が満足げに笑う。
空が薄明かるくなってきて縁側に続く障子に光が差し始めた。
「もうこんな時間か」
「本当ですね…」
気が付いた彼の言葉に頷いて、まだ手当ての途中だったことを思い出す。
残りの包帯を巻き付けて、さっと端を結び終えると立ち上がって救急箱を片付けた。
「朝食の準備してきます。杏寿郎さんはゆっくりお風呂入ってきてください」
「あぁ!」
返事を聞いて襖を開ける。
二人仲良く部屋を出て廊下で別れた。
なんだか、久しぶりに杏寿郎さんと沢山話した気がする。
そんなことを思いながら台所の戸を開けた。
「千寿郎くんおはよう」
いつもは私が一番乗りなのだが、杏寿郎さんの手当てをしていたから少し遅くなった。
声をかけると、ピクッと肩が跳ねてこちらを振り向く。
「っ…Aさん!!お、おはようございますっ!」
声をかけると驚かれた上に、なんだかいつもより元気が良い返事で、どうしたのかと首を傾げる。
「あのっ、Aさん!今晩は僕が片付けをやりますから、Aさんは兄上とゆっくりしてくださいね!」
早口で告げると慌てたように顔を逸らされた。
その行動に先程の会話を聞かれていたのだと思い知って、私が真っ赤になったのは言うまでもない。
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月見(プロフ) - 莉子さん» コメントありがとうございます!可愛い女の子の弟子が気になって嫉妬しちゃう夢主ちゃん。私もきっと妬いちゃうなと、思いながら書いてました!このあとの展開を楽しんで頂ければ嬉しいです(^^) (2021年1月27日 20時) (レス) id: 3e917b4f85 (このIDを非表示/違反報告)
莉子(プロフ) - またまたコメント失礼します!夢主ちゃんの気持ち分かる〜( ; ; )婚約者になっても一緒に居られる時間少な過ぎて、もっとラブラブして欲しいですねぇ!私も絶対甘露寺ちゃんに妬いちゃうと思う。。あんなに可愛いし笑二人の絡みがもっと欲しいです!( ´ ▽ ` ) (2021年1月27日 19時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
月見(プロフ) - 莉子さん» コメントありがとうございます!煉獄さんは簡単に意見や思いを曲げない人だと思ったので、一途になって貰いました!夢主ちゃんの変化に気付いて頂けて嬉しいです!彼女は何も告げずに煉獄さんと一度さよならしたことを後悔しているので、気持ちに素直になり始めてます! (2021年1月19日 20時) (レス) id: 3e917b4f85 (このIDを非表示/違反報告)
莉子(プロフ) - こんにちは^^この作品大好きで、煉獄さんがずっと一途に想っている設定が凄く合ってて、世界観にどっぷり浸かれちゃいます!なかなかすれ違いが長かったので、こうやって両想いになれて本当嬉しいです( ; ; )幸せ!夢主ちゃんも少し変わってきましたよね!ラブラブ (2021年1月19日 19時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
月見(プロフ) - 和葉さん» コメントありがとうございます!このあと二人がどうなっていくか、ぜひ楽しみにしていて下さい(^^) (2021年1月15日 19時) (レス) id: 3e917b4f85 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月見 | 作成日時:2021年1月3日 14時