真っ直ぐに恋【煉獄杏寿郎】

89.心配 ページ40

「どうして隠したりなんかしたんです？」

杏寿郎さんの怪我は範囲は広かったけれど、爪で引っ掛かれたような浅い傷だった。

それでも菌が入ると侮れないので、しっかり消毒をしてガーゼを当てると包帯を取り出す。


「Aに心配を掛けたくなくてな」

まだ皆が寝静まっているからか、杏寿郎さんは落ち着いた声でそう言った。

「隠されると余計心配になります」

逞しい腕に、取り出した包帯をくるくる巻いていくと「ならば…」と彼が続ける。


「君もどうして元気がないのか教えてくれるか？」


えっ？と彼を見る。


「ここ数日浮かない顔をしていることがあるだろう？昨日の見送りの時もそうだ」


ぎくっと内心動揺が走る。

私はそんなに顔に出るのかしら………？

そう思いながら止まってしまっていた手を動かすと、怪我をしていない方の手が私の腕を掴む。


「何とか言ってくれ」

「…！」

「隠されると余計心配になると君が言ったんだぞ。俺も同じだ」

「うっ…」と言葉を詰まらせる。

彼が言うように、先に隠さないで欲しいと言ったのは私だ。


まさか、自分の発言が自分に返ってくるとは………

でも、どうやって伝えればいいのだろう。


「A」

ぐるぐると考えていると名前を呼ばれる。

彼の腕に落としていた視線をあげると、彼の瞳が真っ直ぐ私を見つめていた。


何だが恥ずかしくて目を逸らして、それからちらりと彼を見る。


「………笑わないでくださいね？」

「あぁ」

「………あと、引かないでくださいね？」

「うむ」

「………たぶんですよ？」


返事を聞いて、彼の反応を確認するように覗き込みながらぽつぽつと話し始める。


「私は寂しくて、…………妬いているんだと思います」

「やく………？なにをだ？」

この言い方では伝わらなかったらしい。
彼が首を傾げている。


「だ、だから………杏寿郎さんがお稽古で忙しいから………そのっ………私は嫉妬してるんだと思います…………」

もじもじと言葉を濁しながら話した。
最後の方は恥ずかしくて語尾が小さくなってしまった。


彼が何も言わないから、居たたまれない。

いつの間にか私の視線は下がっていて、視界には自分の膝と畳が映っている。


聞こえなかったのかな？
それとも、私の心の狭さに呆れてしまった？


不安で一杯になり始めていると、彼が私の方に手を置く。

顔を上げた途端、頬にちゅっと口付けられていた。

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