真っ直ぐに恋【煉獄杏寿郎】

88.隠し事 ページ39

日が暮れた頃、玄関に立つ杏寿郎さんを千寿郎くんと甘露寺さんと共に今日も見送る。


「では行ってくる！」

いつもの凛々しい顔が私たちを見た。


「えぇ、お気をつけて」と声を掛けると「A」と名前を呼ばれる。

いつもなら頷いて身を翻して出ていくのに、と驚く。

「はい」と返事をすると少しだけ首を傾けた彼が尋ねてくる。


「少し元気がないようだ！大丈夫か？」


「え？」

驚いた。
もしかして最近不安に感じている事が顔に出ていたのだろうか。

内心どきっとしながらも平然を装う。

「え、えぇ。大丈夫ですよ？」

返事に納得したのか「そうか」と頷くと彼は家を出た。


危ない。

そう言えばあの人は意外と見抜いてしまうところがあったな、と今までの事を思い出す。

「では僕、父上のお皿下げてきますね」

そう言って千寿郎くんが廊下の奥へと消えていく。

それを見て私もまだ机やお皿の片付けが残っていることを思い出して立ち上がる。

「甘露寺さん、いつも通り先にお風呂入ってしまってくださいね」

笑いかけると「はい」と返事した彼女。
しかし、「あのっ！」とすぐに呼び止められる。

「どうかしましたか？」と振り返ると、「そのっ………」と言い淀む。

「や、やっぱりなんでもないですっ！！」


様子に首を傾げていると、早口にそう告げた彼女が ぴゅーっと廊下の奥へ消えてしまった。

様子からして何でもないようには見えなかったけれど…？

不思議に思ったけれど、考えても分からないし思い当たる節もなかった私は片付けに戻った。


＊＊＊＊＊


翌朝。
まだ薄暗い中、私が起きて身支度をしていると玄関の方から音がした。

きっと杏寿郎さんが帰ってきた音だ。
出迎えようと急いで済ませて襖を開けるとばったり出くわした。

少し驚いたけれど、「おかえりなさい」と声をかける。

「あぁ、ただいま」そう言った彼がそっと腕を後ろに持って行った。

どれだけ鬼の返り血を浴びても、いつもそんなことはしないのに……何だろう？と不思議に思う。


「杏寿郎さん、何か隠しませんでした？」

「む。ばれてしまったか」

一瞬、彼の体が固まったと思うと諦めて左腕を見せてくる。

「まぁ！怪我してるなら早く言ってください！」

彼の腕を引いて居間へ向かう。
民宿で鬼狩り様のお世話をした頃にも、その方々が怪我をして帰ってくるなんてことはよくあった。

あまり酷いとお医者様を呼ぶけれど、多少の傷なら沢山手当てしてきているので慣れたものだ。

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