真っ直ぐに恋【煉獄杏寿郎】

53.恐怖心 ページ4

ある日の夕方。
仕立てていた着物が完成したようで、呉服屋の主人がやってきた。

上がってきた二着に袖を通して、最終確認を済ませる。

残りは来月以降になるそうだ。

仕立てられた着物のまま呉服屋の主人を肇さんと玄関まで見送った。


「やはり、このぐらい派手ではないと」

そう言って私を見る彼。

今着ているのは肇さんが選んだもの。
要するに彼の趣味とでも言えばいいだろうか。

思っていたよりは悪くない。

けれど、果たしてこれは私に似合っているんだろうか、と疑問に思う。


人前にはあまり出たくないな……

そういえば、ここへ来てから私は一度も外出していない。


この町で暮らすのであれば、そろそろ外出して何処にどんな建物やお店があるのか把握しておきたいものだ。

そんな事を考えていると、肇さんが私の腕を掴んで廊下を歩き始める。

「…？肇さん？」

不思議に思って名前を呼んでも何も反応が返ってこない。

何処へ向かうのかしら？


暫くして、肇さんが部屋の前で止まった。


ここは確か、彼の部屋…

さっと襖を開けた肇さんが入っていくので私も一緒に入る。


「そこに座って」

言われた通り、机の前に置かれた座布団の上に正座をして腰を落ち着ける。

襖を閉めた肇さんが私の前に座った。

そのまま私の事をじぃっと見てくる。


何だろう…

ここまで連れて来ておいて黙ったままでは困る。


「あの…何かお話しがあるのではないのですか？」

言えば少し間を置いて彼が口を開く。

「そうだな………お前はもう俺の女だ」

「…？」

彼の言いたいことがよく分からない。

「だから、もういいだろう」

目を細めて私の両肩を掴む。

「！」

まさか………

そう思っていると彼の顔が近づいてくる。

「い、いや！………です！」

逃れるように左に身を捻って畳に手をつき、足を崩す。
それと同時にばっと彼から顔を背けた。

「……まだ、結婚した訳ではありません………から」

震える声で絞り出すように告げた。

「それでも婚約者だろ」

「っ……！」

それはその通りだ。

「あいつとは、してたじゃないか」


あいつ………

それはきっと煉獄さんの事だろう。


でも、嫌だ。
この人とは嫌だ。

それに彼とも本当に接吻したわけではない。
だってあれは、フリだったのだから。


同じ事をされようとした筈なのに、あの時とは全く違う。


今、凄く………怖い。

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