真っ直ぐに恋【煉獄杏寿郎】

62.鬼という生き物 ページ13

廊下の突き当たりまで来ると入ってきた雨戸がぐちゃぐちゃになっていて硝子が散乱しているのが目に入った。

真横の襖を開けて部屋へ入る。
更に部屋を抜けて私の部屋まで戻ってきた。


その部屋から縁側に出て割れた窓から外に出る。

ちらっと振り返ると鬼がちゃんとついてきていた。

きょろきょろして私を見付けると追ってくる。


外は殆ど隠れる場所がない。

でも屋敷の中には人がいる。
みんな鬼を知らない人達だ。


鬼がどんな生き物なのか、私しか知らない。


夜明けまではまだ時間がある。
鬼狩り様の刀でなければ倒せない。

このまま敷地を出て町へ逃げる？
でも、そんな事をしたらもっと沢山の人を巻き込むかもしれない。

駄目だ。


「A様っ！」

声の方へ振り向く。

ハルちゃんが鉈を持って走ってきた。

「っ、…駄目！」


そんなものではこの鬼を倒すことは出来ない。

ギョロリ、鬼がハルちゃんを見る。


「っ！」

そちらに足が向いたのを見て私は彼女の元へ駆けた。


「あ…、あぁっ……」

ぼとっと鉈を落として、ガクガクと足を震わせるハルちゃんに飛び付いた。

ぎゅっとその体を抱き締めて、勢いのまま転がると、迫ってきていた鬼の爪をぎりぎりの所でかわした。


あちこち打ったようで痛い。

けれど、直ぐに上半身を起こす。


「はぁ、はぁ、はぁっ」と苦しくて息が切れる。

足が重い。

一度立ち止まってしまったから、余計に足が重く感じる。


私はもう速く走れない。


背中にハルちゃんを隠すと「チッ」と舌打ちをした鬼が私を見た。

「ちょこまか逃げやがって！お前のせいで腹ペコなんだよ！」


「っはぁ、………ハルちゃん、…まだ、…走れる？」

「うぅっ…ごめんなさいっ、ごめんなさいっ………」

ハルちゃんが私の背中に顔を付けて泣いてる。


「大丈夫だよ、大丈夫だから…」


そんな根拠は何処にもない。
けれど、彼女を少しでも落ち着かせたくて、言わずにはいられなかった。


「さぁ…立って？…走って？」

「A様ぁっ！」

「大人しく喰わせろ！」

鬼がゆっくり私たちに近付く。

どうしてか頭はすっきりしていて、鬼の右斜め後ろに屋敷の玄関で立ち尽くすお義父さんと、腰を抜かしている肇さんを見つけた。


「ハルちゃん、あれは鬼なの。……人喰い鬼なの、みんなに逃げるように伝えて」

「A様は………っ」

「私も逃げるよ。…ほら、さっきみたいに別れて逃げるの、ね？」

重い体に鞭を打ってゆっくり立ち上がる。

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