10*Ozaki Side ページ10
尾崎「…だからか」
親指で彼女の目元をなぞれば、小さく『んっ…』と漏らした。
尾崎「隈が今までより断然に濃くなっておる」
いつまでもなぞる
尾崎「その男は誰だ。
見据えて口を開けば、Aは『無理だよ、紅葉』と呟き、首を横に振った。
諦めているかのような口振りに、自分の小さな頃と重なって見えた気がした。
尾崎「…どうしてじゃ。苦しい思いをすることもなかろう。幾ら同い年とはいえ、
遠慮するでない。苦しい顔をしていれば、中也もきっと」
A「遠慮をしている訳じゃないんだって…」
彼女は、次の言葉を発しようとしたのか口を開けたものの、
大人しく閉じた。二人しか居らぬこの廊下に他者の気配を感じ、
周りを見たものの、それらしき人物も見当たらなかった。
Aへと再び視線を戻せば、彼女は涙を流していた。
昔から、彼女は大人びていた。
鴎外殿曰く、容姿と相反し、物事を冷静に見極めては、
どんな残虐なことを目の当たりにしても、決して表情を変えることはなかったという。
今のAと比べれば、まったく違う。きっと、彼女を変えたのが、
その男という訳か。
声を殺して泣くA。
…嗚呼、これでは中也の元に案内しづらいではないか。
尾崎「………これでは、中也に顔向けできんのう」
Aの腰に手を回しては、自分が使っている部屋へと案内をする。
目を擦る彼女に『擦るでないぞ』と言えば、先ほどよりかは擦る回数が減った気がした。
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作者名:松城美樹 | 作成日時:2022年5月29日 22時