オレンジゼリーな傘 ページ14
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『…今日もお店、やってますか？』
捻り出した一言に、
伏見さんは目を大きく見開いた。
きゅ、と細くなった瞳孔を隠すように、
切れ長の瞳が三日月を描く。
にっと笑って伏見さんは答えた。
伏「もちろんっすよ！
さ、行きましょう。」
２人で傘をはんぶんこすべく、横に並んだ。
広げられた傘はオレンジがかったビニール傘。
きらきらと透き通って、ゼリーみたいだ。
半透明なそれから透ける月は、
なんとも美しい。
横に並ぶ伏見さんの顔をそっと盗み見る。
整ってんなぁ。
月に負けないくらいに。
剣持さんに会った時も思ったけど、
ふたりとも顔面が強い。
じっくりと観察していると、
伏見さんと目が合った。
ん？といたずらっぽく笑いかけられ、
私は瞬時に下を向いた。
違います。
意識してません。
相合傘初めてだから緊張してるわけじゃないです。
私のローファーと伏見さんの革靴が
雨に濡れた地面を踏みしめる音だけが響く。
…さすがに会話ナシは気まずい。
どうにか話題を絞り出そうと、
視線だけを左右へ動かした。
伏見さんがふんふんと鼻歌を歌い始めたのが救いである。
このBGMまでなくなったなら、
いよいよ私は気まず死する。
視界の端に虹が映った。
『あッあの、伏見さん、
虹、出てますね。』
反射で口から言葉が飛び出す。
噛みっ噛みじゃねぇか。
動揺しているのがモロバレなのが恥ずかしい。
んー？と伏見さんは上を見上げる。
そして小首を傾げて笑った。
伏「夜だし、虹は出るはずないと思うっすよ〜ｗ」
至極当然の返答である。
では、私が見た虹はなんだったのか。
伏「もしかして、アレのことか？」
伏見さんは、
傘を持っていない手を、
くぃ、と動かした。
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作者名：まつくぐり | 作成日時：2023年4月30日 21時
