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「これ餞別だ、持ってけ!」
「体に気をつけろよ!」
「若いのが一気に2人もいなくなるなんて寂しいなぁ」
出発の日、2人のお見送りの為島の人達は港に集まっていた。
皆、思い思いに2人にお別れの言葉を掛ける。
「Aちゃん」
『あ、おじさん!』
Aに声を掛けたのは、かつて彼女の治療を施した医者だった。
「いつかはこういう日が来るとは分かっていたけど…いざそうなると寂しいもんだね」
医者は困ったように笑う。
そんな彼の姿にAは少し涙ぐんでしまった。
『今までいろいろお世話になりました…!ありがとうございます…!』
「君は本当にいい子だね」
『いや、そんな、私は…』
「Aちゃん、前に、私には帰る場所がないって言ってただろう?」
そう言えばそんな話をした事があるな、と医者との思い出を振り返りながら思う。
「今はもう分かっているみたいだけど、君の帰る場所はここだよ。それは記憶が戻ったとしても同じだ。皆君の帰りをいつでも待っている」
「だから安心して、行ってらっしゃい。辛くなったら、いつでも帰ってきていいからね」
『…はい!ありがとうございます!行ってきます!』
Aは安心した。
正直なところ少し不安だったのだ。自分が何者か、家族はどこにいるのか、それが全て分かってしまったらもうここには戻って来れないような気がしていたから。
けれど、それでも関係ないと彼は言ってくれたのだ。
『(本当に、いい人に巡り会えたなぁ…)』
「Aー!もうそろそろ船が出発するよー!」
『あ、もうそんな時間か…今行くー!』
声を掛けたゴンの元に駆け寄ると、そこにはミトも一緒に居た。
『もうお別れはすんだの?』
「うん、もう大丈夫!俺は先に行ってるね」
彼なりの気遣いなのだろうか、Aはミトと2人きりになると彼女の目を真っ直ぐ見つめ約束する。
『ミトさん、私がゴンを絶対に守るから、だから安心してね』
「……あなたも無事に帰ってくるのよ。ゴンだけじゃない、Aも家族なんだからね」
『うん、約束する。絶対に、私もゴンも無事に帰ってくる!』
2人は別れを惜しむように抱き締めあった。
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「元気でねーーー!!俺、絶対立派なハンターになって戻ってくるからーーー!!」
『私もーーー!!無事に帰ってくるからーーー!!』
出発を始めた船の上から最後の別れを告げる。
こうして彼女の記憶を取り戻す旅が始まった。
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作者名:抹茶パイン | 作成日時:2019年9月18日 18時