rob11 ページ45
「ダメですよ、Aさん」
突然背後から聞こえた、耳に馴染んだ声にどきっと心臓が跳ねて思わず足を止める。
「あと少しだったのに……。
またね、Aさん」
安室さんは特に悪びれた風もなくさらりとそういうと私の手を離し、一瞬のうちに姿を消した。びっくりする間もなく後ろから肩を掴まれ、即座にギュッと背中から抱きしめられた。
「――え？ ねえ、どうしてここに？」
「どこに行ったってすぐに見つけるって言ったじゃないですか」
私はくるりと腕の中で向きを変え、昴さんを見上げた。夕闇の中で悠然と私を見つめている彼は、怒っているようにも見えるし、普段と変わらず微笑んでいるだけの気もする。
「ひょっとして、勝手にGPSのわかるスマホアプリでも入れました？」
「ええ、電話番号を入れるついでに」
すごく当たり前の事みたいにさらりと言って、全く悪びれないのはどうかと思う。
確かに私はスマホをほとんど使いこなしていないので、謎のアプリが増えていても気が付かないけれども。
「まあ、だからといってあなたがそのスマホをどこかに置き忘れたとしても、別の方法で探し出しますよ？」
何も言ってないのに、考えていること一瞬でバレるの怖いんですけど。私、そんなに考えていることが顔に出ているかしら。
「怒ってる？」
「いいえ、でもすごく心配したことはわかってください」
「――ごめんなさい。
でもね？ 私は興味のある部活体験をしたあとちょっと慣れない道で迷子になっただけだし、まさかこんなところに安室さんがいるなんて思わないじゃない？」
「そうですね。もっと別の人に捕まったかもしれません」
そんなに簡単に誘拐犯が現れるとは思わないし、安室さんにあのままついていったとしても無事に私を家まで送ってくれただけだとは思うけど、否定することもできなかったので黙って差し出される手を掴んだ。
「ほら、私の手を握っていないとあなたはすぐに迷子になる」
絶対にそんなことないと思うけれど、否定もできなくなってしまったのでぎゅっと大きな手を掴み、黙って一緒に歩いた。
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作者名：まつり
| 作成日時：2022年6月16日 15時
