rob3 ページ37
「大事な論文ってなにか聞きました――?」
兵頭さんから聞き出したタイトルは、先日、私が教授に渡したものの1つだった。
「あ、それなら私コピーしていますよ。教授の加筆分はもちろんないけど、お役に立てれば――」
私は今日渡す予定だった論文の入ったCD-RWを鞄の中から取り出した。昴さんはそれをひょいと手に取る。
「Aさん、これ、私から先生に渡しておきますね。ついでにご自宅に伺って様子を見てくるので――」
スマホを片手に研究室を出ていく。どうしてかわからないけれど、その時また彼が消えてしまう気がしたので、私は慌てて追いかけてその手を掴んだ。
「私も一緒に行く。私が書いた論文なんだし――」
「講義があるでしょう? 大丈夫。心配しないで――。様子を見てこれを渡してくるだけだから」
「帰ってきてね」
「当たり前じゃないですか。――心配なら、次からはきちんとしるしを残して帰りますよ?」
そういってわざと私の首筋に触れる。
ほんっと、たまたま周りに人が居なくて良かったけれど――。
いや、もしかしたら偶然じゃなくて周りに人が居ないからこうしてからかっているのかもしれない。
「絶対ダメ。――そんなことしたら私だって残すよ?」
からかわれっぱなしなのが悔しくて、つい精一杯背伸びをしてそんなことを言ってみる。本当に私も彼の肌に痕を残すことができるのか、さっぱり自信はないけれど。
昴さんは自分の首元を指してにっこりと妖艶な笑みを浮かべた。
「大歓迎です。では、次に誰かにこの服を好んで着る理由を聞かれたら、『彼女がやたらと噛みついてきて困るんです、見てみます?』って言うことにしますね」
ってからかうから――。「それも、絶対ダメ!」って言った後、結局彼の後姿を見送ることしかできなかった。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年6月16日 15時