219グラム ページ30
「明日の――そうだな、昼過ぎにはそっちに行く。夕食を作ろう。何か温かいものを、一緒に」
「鍋とか? おでんとか?――もしくは、クリスマスの前倒しでも――いいけど」
「倒さないよ。クリスマスは君のために空けてある」
――そういえば、こんな関係になる前だって、毎年のように、予定のないクリスマスイブは、いつも零が私の傍に居てくれた。
「あ……もしかして、いつも空けてくれてたの?」
クリスマス1人で過ごすなんて淋しいから、どこかで彼氏でも作らないと……って言ったのは多分留学から帰ってきた最初のクリスマスの頃だ。
『誰でもいいなら僕でいいだろ? どうせ仕事が忙しくて前もって予定なんていれられない』
その言葉の中に、私への気持ちが込められていたなんて長い間気が付かなかった。
気が付かないくらいさりげない口調で言ったのだ。
一瞬間をあけたのち、ふぅ、と、切なげに零がため息をついた。
「そんなに気の利く男じゃないってことは、君が一番よく知っているだろう?今だってきっと、僕のせいで泣いてる」
そうだ、彼はいつだって素直じゃない。
自分の気持ちを押し隠すのが上手すぎる。
「泣いてない」
頬を流れる涙が、電話の向こうで見えるはずもないのに。
「――そっか。そういうことにしておこう。今話したいことは他にある? それだけじゃないはずだ」
「だって、零、忙しいから」
「僕はいつだって忙しいから、むしろ気にせずいつでも電話をかけてくれればいいのに。――でもそうだな、僕から電話をかければよかった。今から帰ろうか? 顔を見て話した方がいいなら――」
「仕事溜まってるんでしょ? 明日でいい。シュウ、今家にいるから。心配しなくても平気。夕食にね、ステーキ焼いたんだけど、全然上手に焼けなくて。零に焼いて欲しいなって思っただけなの」
うん。嘘じゃない。
最後の引き金は、それだった。
とびきりのステーキを食べさせてあげると約束して零は電話を切った。
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まつり(プロフ) - 彩香さん» ありがとうございます!あれもこれも書きたくてなかなか完結しないのですが、のんびり読んでいただけると嬉しいです。 (12月11日 21時) (レス) id: 91a8359b9e (このIDを非表示/違反報告)
彩香(プロフ) - いつも楽しく拝見させていただいています!大変だと思いますがご自身のペースで続けて欲しいです!まつりさんの作るシーリーズ大好きです!!これからも頑張って下さい!応援しております。 (12月11日 18時) (レス) @page1 id: 933da0752b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まつり | 作成日時:2023年6月15日 16時