209グラム ページ20
やっぱり我が家に帰るとホッとする。
先にお風呂から上がった私は、椅子の背にかけてあった昴さんのジャケットを羽織ってソファに寝そべる。
煙草を吸わない分、昴さんの服の方がずっとシュウの匂いをダイレクトに感じることができた。ロンドンのベッドの匂いに近い。
「A、もう寝た?」
耳元で艶のある声が聞こえてきて目が覚めた。
「ん、もう寝た」
瞳を開ける気にならず、目を閉じたまま頭を撫でられることに甘えておく。
「布団の次はジャケットか。自分がどれほど心が狭いか思い知らされる。俺に、布に対して嫉妬させるのは君だけだ」
ちゅ、と唇に優しいキスが降ってきた。
「妬いてるの?」
自分のジャケットに? 私はシュウの匂いに包まれていたいだけなのに。
「妬いてるって言ったら俺だけのものになってくれる?」
甘い声が耳に優しくて口角が上がる。
「いいよ。帰ってこない人のことはもう忘れる。次に零がここに来たら追い出してね?」
だからもっとそばにきて、と手を伸ばした。
「――それはまた、大変そうだな」
くすりと笑うと彼はソファの上に横たわるとわざわざジャケットを取り上げたうえで、私を腕の中に抱き寄せた。瞳を開くと、風呂上がりのシュウが居た。
「シュウ、好き」
何度も何度もキスをする。唇に鼻先、頬骨の当たるところ、こめかみ、形の良い耳、瞼の上。指先、首元、柔らかな頬、そして再び彼の唇にキスをした。
その間中彼は、私に身を任せながら邪魔しないように優しく私の身体を撫でてくれる。
「俺もだよ。君はきちんと自分のことを大切にしている。
彼女には正確に状況が伝わってないから誤解されているだけだ――」
「ん、ありがとう」
いろんな人が私のために親身になってくれているだけでとても幸せだ。
私が落としたのの倍くらいのキスをあちことに落とした彼は、「困ったな、全然足りない」と笑う。
「私も」
「布団に移動してもいい? それともここで?」
「布団がいい――でも、もうベッド買った方がいいのかな」
こんなにもうちにいるのならきっと、スプリングのきいたベッドの方がいいに違いない。
「一部屋潰れてもいいのなら、明日特注のベッドを頼もう」
「三人で寝れる?」
そんなベッド特注で頼めたりする?
「さぁ、どうかな」
「ちょ……。人の家で拳銃持ちだして喧嘩したりしないでよ?」
「善処する」と笑うシュウはきっと善処なんてしてくれない、気がした。
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まつり(プロフ) - 彩香さん» ありがとうございます!あれもこれも書きたくてなかなか完結しないのですが、のんびり読んでいただけると嬉しいです。 (12月11日 21時) (レス) id: 91a8359b9e (このIDを非表示/違反報告)
彩香(プロフ) - いつも楽しく拝見させていただいています!大変だと思いますがご自身のペースで続けて欲しいです!まつりさんの作るシーリーズ大好きです!!これからも頑張って下さい!応援しております。 (12月11日 18時) (レス) @page1 id: 933da0752b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まつり | 作成日時:2023年6月15日 16時