再会7 ページ45
「Aさん――もしかして、恋人出来ました?」
丁寧にテーブルを拭いていたら、唐突にそんなことを問われてびっくりして目を丸くする。
「今年はどうも恋愛運上がらないみたいなんで、勉強に専念することにしました!学生っぽくっていいでしょう?
でも、どうしてそう思うんですか?」
「――噂を聞いたんです。最近Aさんは素敵な人と一緒に歩いているって」
絶対沖矢先輩だ。でも、そんなに一緒に歩いた記憶もないけど……。
ほーら、もう、こういう誤解が広がるから辞めてほしいのに――。
あ、でももう一緒に合コンに行くこともないから大丈夫だよね、きっと。
「それ、もしかしたら研究室の先輩かも。どっちにしても恋なんて始まりませんよ?安室さんこそ恋人、いらっしゃらないんですか?
あ、でも、いるって知れたらファンの人たちが怒っちゃいそうだから、そんなに簡単に明かせませんよね」
安室さんに彼女が、いないわけがないと思う。
こんな素敵な人がフリーなら放っておかないでしょ、きっと。
「Aさん――」
唐突に後ろから抱き寄せられてびっくりした。え――?ついさっきまで食器洗ってなかったっけ――。いつ、背後に来た?
吐息が触れるほどの距離感。背中越しに彼の存在を感じる。あまりにも近くて、脈拍があがった。
彼の手が、私の右手を掴み――そのまま滑らせるように私の手にしていた布巾を取っていく。
「テーブルを拭いてなんて頼んでいませんよ」
耳元で喋るのはやめてほしい。顔が真っ赤になるのを止められない。
「あ――でも、早く終わった方がいいかなって――」
「そうですね、ありがとうございます」
安室さんは私から布巾を取るとそっと、身体を離して去っていく。どんな顔で彼を見たらいいんだろう。
私が些細なことを気にしすぎなんだろうか――。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年5月26日 8時