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帰り道6 ページ37

「――言っておきますけど、最初に私に手を出したのはAさんですよ?」

――言い方!
その言い方ものすごく語弊がありませんか?
確かに今日、最初に先輩の手を取ったのは私です。

「それは講義の時に先輩が真ん中に座ろうとしたからじゃないですか」

「だめでしたか? 一番よく講義が聞けるじゃないですか」

「からかってます?」

もうだめ、降参。勝てる気がしません。

「いいえ、全然。
 本気であなたの傍に居たいのに、拒絶されている困っているだけです。

 ――難攻不落のお姫様だなと思っていますよ」

至近距離で顔を覗き込まれても困る。

――ちょっと、何を仰っているのかよくわかりません。
  だいたい、先輩が私のことを好きになる要素がどこかにちょっとでもあった?


「仕方がないので、今は恋愛は嫌だという姫のご意見は尊重します。
 ですから、ボディガードとして傍に居るだけならいいですよね?
 学業の邪魔はしませんし、研究室ではこれからも今まで通り手伝っていただけると助かります」

体温が感じられるほど近くで、ささやくようにそういうことを言うのは、本当どうかと思う。

せっかく飲んだカモミールティーのリラックス効果が全くもって発揮されないどころか、心拍数はどんどん上がっていく。

「お申し出はありがたく思います。でも、私、別にボディガードが必要ってほど危険にさらされてないですよ? ボディガードは不要です」

「何かあるたびにこんなに震えているのに?」

「――だから、それは――」

「では、大学にいる間だけ、それならいいですよね? プライベートには踏み込みません。これ以上譲歩しろなんていいませんよね?」

「――わかりました」

だめだ。もう、完全に先輩のペース。なんでいつの間にか私が譲歩を迫っている人みたいになってしまったのか全然わからない。


「よろしくお願いします」

「こちらこそ、Aさん」


そうやって、先輩から、ものすごく感じの良い笑みを見せられると全然嫌な気がしない、むしろくすぐったさを覚えている自分の心情も、いまいち言葉にはできなかった。

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作者名:まつり | 作成日時:2022年5月26日 8時

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