終わりに ページ39
それから約一月経ったある日の夜――
私と昴さんは船の上から工場の夜景を楽しんでいた。
きらきらと輝く夜景はうっとりするほど綺麗で申し分ない。
とはいえ、海の夜風は、思ったよりもずっと涼しくて私は思わず両腕で自分の体を抱きしめる。
ふわりと、背中からジャケットをかけられた。
「わ……っ」
何か事前に一言いってくれてもいいのに、という思いで昴さんを見上げたらふわりと微笑まれた。
「ジャケット着る? って聞いたら、Aさんは絶対にいらないって言うでしょ?」
「まあ、それは……」
否定できない。
あのキッドの一件以来これという事件も起きずに実に平和。暇を持て余した私は、昼間、パン屋さんでアルバイトを始めたばかりだ。
一回、少年探偵団のみんな、そして蘭さんと一緒にバーベキューを楽しんだりもした。
「あっという間に終わっちゃうね」
クルージングの時間はあっという間に終わってしまった。
淋しさを募らせる私に、昴さんがそっと左手を差し出した。
「では、早速次の予定を立てましょう。行きたいところはありますか?」
私は彼の手を掴む。
「行きたいところばっかりで、全然決められない」
世界は広すぎるし、長い間家にこもっていた私にとって、世の中には知らないことが多すぎる。
でも、どこにも出かけなくったって、2人で過ごす時間はとっても楽しい。
ずっとこのままってわけにはいかないかもしれないけど、それでも、今しばらくはこんな毎日が続いてほしいな、と思いながら私たちはゆっくり船から降りた。
Fin.
私たちが、このときジャケットの胸ポケットに差し入れられていた、怪盗キッドからの予告状に気が付くのは、翌日のことである――
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作者名:まつり | 作成日時:2022年5月25日 13時