安室透の不安【NoSide】 ページ4
「で、ハギに言い負かされて手ぶらで帰ってきた、と?」
深夜2時。ゼロとヒロは、いつもよりも広く感じる部屋でウイスキーを煽っていた。
「あいつらが本当の闇を知らないのはいいことなのに――。
すごくもどかしく感じることがある」
ゼロもヒロも、組織に潜入して、この世の地獄を見ている。
それは、日本国内にいて普通に生活しているだけでは決して見えない――もちろん、テレビのニュースでも報道されることのないような、暗黒の世界だ。
とても現代社会とは思えない、非人道的な行為が世界のあちこちで密やかに行われている。
ちょっとミスをすれば家族ごと消去される。
――消去とは良く言ったもので、「殺されたことすら明らかにならない」
死に気づいてもらえない、死すら悼んでもらえない人たちの存在を、知るものと知らないものの差は歴然としていた。
死亡あるいは行方不明であることが発覚すれば、警察に要請が来るがそれすらわからないのだから、警察に要請が来ることもない。
ここまで人を跡かたなく綺麗に消し去る方法があるなんて、組織に入るまでは知らなかった。
赤井秀一だって、その闇を知らないでいたのなら、わざわざ「どうしても守りたい人」を自分の傍から引き離して日本に連れてくることもなかったのだ。――と、ゼロは考えている。
「それは望みすぎだよ、ゼロ。そんなことより、Aちゃん、元気だった?」
「ああ、幸せそうに眠っていた――マツとハギの間で」
はぁ、と、ゼロは今日何度目かわからないため息をつく。
「連れて帰ればよかったのに」
「起こしたくなかったんだよ。せっかく落ち着いているのに。それに――ハギを論破できなかった。
僕は彼女に年相応の判断力を求めるのは時期尚早だと思っているけれど、それすら思い上がりと言われたらなんとも――」
ごくりと、琥珀色の液体を飲み干す。
「Aちゃんはどうして帰りたくなくなったんだろうな。そっちの方が問題じゃない?」
「眠っているのに聞き出すわけにも――。
明日改めていってくる。マツが明日休みだとしても明後日には仕事だろ。
いつまでも、一緒にいるわけにはいかないさ」
――そうすれば、Aはきっとこれまで通りここに戻ってきてくれるはず――
ゼロはそう結論付けて自分を納得させ、寝ることにした。
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作者名:まつり | 作成日時:2023年1月29日 16時