ミステリートレイン1 ページ8
「……はぁ……あったまいたーい……っ」
私は倒れそうな気持ちで、ミステリートレインに乗り込んでいた。
まだまだ電車は出発しないんだけど、頭がガンガンして立っていられない。
うっかり知り合いに捕まっても、会話の1つもまともにできなさそうだったので、一早く乗り込んでこうして個室で倒れこんでいるのだ。
沖矢さんが水と薬を買ってきてくれるっていうから、静かにそれを待っている。
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工藤有希子さんの自宅に招かれて食事をご馳走されたのが確か月曜日だったので、あれから数日間。
「だっていくらファンでもこの人とうちで二人っきりになるわけにはいかないじゃない? 仕事終わったら絶対にうちにきて?ね?」とか
「ワイン買いすぎちゃったのー、今夜もきてくれるよね?」とか
「ちょっと新作料理作ったから味見にきて? 正直、赤井さんの舌だけじゃ評価が不安」とか
「久しぶりに英理(蘭ちゃんのお母さん。妃弁護士のこと)と二人で飲もうと思って誘ったら、Aちゃんとも知り合いだって聞いたから!せっかくだから後で合流して?」とか
それはもう強引に毎晩毎晩仕事終わりに付き合わされて――。警戒してウイスキーは一滴も飲んでいないのに、ついに今朝は起きたときから頭がガンガンしているので、私は本当はお酒に弱いのかもしれない――と思い始めているところだ。
何故有希子さんは今日も朝から元気なんだ――。信じられない。昨夜も私以上にワイン飲んでたよね? 気のせい?
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そうして今日はなぜか、有希子さんに「どうしても付き合ってほしいの。仕事お休みでしょう?」と、半ば強引にミステリートレインに乗車させられている。
この前の群馬のキャンプに行くときに、少年探偵団がこぞって指輪を自慢していた、鈴木財閥所有のあの電車。
チケット簡単に取れないんじゃないの?なんで持ってるの?
どこに行くのかもわからない電車に乗って、どうするのか……
少し調べれば誰にでもすぐに行先なんてわかるって、シュウは言ってたけど私は結局聞いてない。無事に帰宅できればそれでいいです。
あと、有希子さんはそろそろアメリカに帰ってください。
私は有希子さんのペースに巻き込まれたら、逃げ切れないし断れない。
強引な上に悪意が一切ないから、私が困っているなんて考えもしていないのだ。
コナン君(新一君)があれほど自由度が高くて物怖じしないのは、このお母さんに育てられたからかー、と妙に納得してしまう。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年11月25日 12時