元彼と再会4 ページ7
いつもいつも、沖矢さんに会うたびに同じことの繰り返しだ。
本当はさっきみたいに、「沖矢さん」と私も恋人同士であるべきなんだろうか。
でも、その時に零に出会ったら? 直接会わないとしても、いつかみたいに「零の部下」が私たちを見て零に話すかもしれない。その時に私は零にうまく説明できる自信がない。
私の言葉の端々から、沖矢昴の正体が赤井秀一ってバレたら?
それを、零が組織に伝えたら?
――そんな恐怖と、私はいまだにうまく向き合えない。
シュウは黙ったまま、ドライヤーを使って私の髪を乾かしていく。彼の指が、掌が、時折とても優しく私の頭を撫でる。
わざとみたいに、時間をかけて丁寧に。合間に一度沖矢さんのスマホが着信音を発したが、とりあえうこともなかった。
「沖矢さん、ありがとう。私、タクシー拾って帰るね」
目を見ても顔を見ても決心が鈍るので、うつむいたままそう言った。
「ああ、言うのを忘れていました。今からうちにきてください。是非、ゆっくり話がしたい」
「はい?」
沖矢さんは右手で私の腕を捕まえ、左手で手早くスマホを操作すると、耳に当てた。
「すみません、電話に出損ねて。それがやはり、私の言葉には耳を傾けてくれなくて」
「ほんっと嘘が下手なんだから。私に会わせたくないだけでしょ?赤井さんの言葉に耳を傾けない人なんて、いるわけないじゃない」と、電話の向こうで女性の声が響く。
――今、赤井さんって言った?
ためらいもなくそう呼んだよね?
びっくりして沖矢さんを見上げると、彼は美しい緑色の瞳を隠すこともなく私を見つめていて視線があった途端にとても嬉しそうに笑みを浮かべてスマホを肩と耳の間に挟み、当たり前のように私を腕の中に閉じ込めた。
そうされると、もう私はその温くて優しい檻の中から抜け出すことができない。
「そう思うでしょう? 私も手を焼いています。――そこも可愛いんですけどね。ええ、代わります。有希子さんが代わりに説得してもらえますか?」
もしや今、私は目の前で公然と悪口を言われているんだろうか。
むっとした私の目の前に、スピーカーモードに変えたスマホを差し出された。
「もしもし、Aちゃん? ロンドンではお世話になったわね。今、家に戻ってきてるの。夕食作りすぎたから、一緒に食べて行って? お願いよ、待ってるわね」
説得も何もない。
一方的にそういうと、工藤有希子さんは返事も聞かずに電話を切ってしまったのだから。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年11月25日 12時