敵の敵12 ページ46
「あら、安室さん本当に帰っちゃったみたいね」
工藤邸に訪れた零を見送った後、私は、しばらく有希子さんの姿でキッチンに居たのだが――。
多分、もう零は戻ってこない。
「おねーさん、完璧すぎて怖い」
そう言ったのは、沖矢昴の姿を完コピしているキッド君だ。
その姿でよく、怪盗キッドの声が出せるよね。
今の私は完璧に有希子さんなので、そういう切り替えは難しい。
「何言ってるの? 昴君」
――そんなことより、この多すぎる食事なんとかしなくっちゃ。
キッチンにある豪勢な料理を作ってくれたのは、プロの料理人だ。
蘭ちゃん→園子ちゃん経由で、家庭料理の作れる料理人を紹介してもらった。
3人分だけど――、普段、ろくに夕食を食べない私とシュウにとっては多すぎる。
キッド君が平らげてくれるとは思っているけれど。
それでも余ったら、ちょっとアレンジした後、明日のお昼に阿笠邸に遊びに来る少年探偵団の子供たちに振舞う予定だ。『安室さん』が阿笠邸に足を踏み入れることはない。
特にたくさんたべてくれる元太君にとって、沖矢昴は多分「料理上手な(たまに下手なこともある)お兄さん」とでもなっているはずだ。
でも、シュウの読み通り今日零がここにきたことには本当に驚く。
昨日の仕事中に私に連絡が来たから、昨日来ると思っていたんだけどな。
ぺりっと、私の目の前で沖矢昴から素の姿(推定)に、キッド君は姿を変えた。
ついでに私に手を伸ばそうとする手をやんわりと押しとどめたのは、さっきまで工藤優作の姿で書斎に居た沖矢さんだ。
でも結局、零と会うことはなかった。
今はもう、すっかり沖矢昴の姿でここにやってきた彼は、キッド君の代わりにサクッと私の変装を解いてくれる。
私はブラウスで隠していたチョーカー型変声器を外した。
「本当に油断も隙も無い」沖矢さんがキッド君に言う。
「いいじゃん、別に!ちょっとくらい!」唇を尖らせるキッド君は、私のことを一体何だと思ってるんだろう……。
「本当に怖いくらい、過集中するんだな、君は。
本当に有希子さんかと思った」と、沖矢さんは苦笑する。
「それは、キッド君の教え方が上手いからだよ。
でも、正直言うと、演じているって感じじゃなかったかも。
もう、勝手に有希子さんとして思考しちゃうし、身体が動いちゃう。
キッド君、よく、自分のこと忘れないね?」
首を傾げる私を見る、キッド君はちょっと困った顔をする。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年11月25日 12時