敵の敵11―降谷side― ページ45
ふわぁ、とあくびをかみ殺しもせずに降りてきたのは、7月も半ばというのにハイネックを着ている沖矢昴だった。
――家の中でもハイネック?
もっとも、この家の中は玄関先ですら空調が整っていて快適だ。
「安室さん、どうされました?」
「いえ……。ここにAさんが居るのではないかと思いまして」
彼はおや、と、首を傾げる。
「Aさんなら、しばらく恋人と過ごすから、気軽に声をかけないでと先日フられたばかりです。
頑なにお相手の名前を教えてくださらなかったのですが、てっきり安室さんのことだと思い込んでいました」
にっこりと微笑む穏やかな笑顔から、今の発言が嘘か本当か読み取ることなどできなかった。
ええ、そうですとも、いいえ違いますとも言い難い。
どこからどうみても赤井に見えないことこそが、赤井である事実にも思えてならないのだが、それはもはやただの言いがかりの範疇なのは自分でもわかっていた。
「立ち話もなんですから、上がって行ってくださいな」と何度も僕を家に上げようとする有希子さんの意図もよくわからない。
これが事実だとしたらこれ以上探るものはないし、万が一、これが大掛かりな芝居だとしたら――暴き立てるのはとても難しいのだろうと予想がつく。
しかし、僕がいつここに来るかなんてわからないのに、芝居の準備なんてできるものだろうか。
猜疑心がむくむくと湧き上がってくる。
家に上がったら最後、むしろ、こちらが罠にかけられるような嫌な予感すらした。
「すみません。僕の勘違いだったようです。失礼します」
「あら、そうなの?残念だわ。またいつでもいらしてくださいね」
「――有希子さん。それは、概ね在宅している人の言葉ですよ? 頻繁にロスに戻るつもりなら、誘わない方がいいのでは?」
沖矢昴が呆れたようにも、驚いたようにも見える表情で口を挟んだ。
「そうかしら? だって昴君のお友達なんでしょう? 私がいてもいなくても、別にいいんじゃないかと思って」
有希子さんは平然としている。このままここに長居すれば、彼女の言葉から何かがうかがい知れるような気もしたが――自信が持てない。
2人の会話を背中で聞きながら、工藤邸を後にした。
121人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:まつり | 作成日時:2022年11月25日 12時