ミステリートレイン19 ページ26
言い訳とか、弁解とか、そういった余地は一切与えてもらえなかった。
眼鏡を外すと、後頭部に手を添えられる。直後、彼の唇が私の唇を覆うと、彼の舌は強引に私の唇も歯列もこじ開けて私の舌を、絡めとっていく。
だめ……っ
哀ちゃんとコナン君は近くに居るはずだし、そもそもこんなキス、ここでしていいことじゃないし、列車は次の駅で止まるとアナウンスがかかっている。
考えないといけないことが山積みなのに、熱いキスが何もかもを溶かしていく。
部屋には淫靡な音が響いているし、
「ん……っ」抑えきれない私の甘い声が、鼻に抜ける。
力が入り始めた指先で、彼のジャケットを掴んでみるが、それで何かをやめてくれるわけではない。
列車が止まり、ようやく唇が離れた。
「このまま君を抱えて列車を降りるのと、ここで人の姿が消えるまでしばらく待つのとどっちがいい?」
選択肢は2つしかないようだ。
「ここで、待っている」
「わかった。駅員さんにしばらくここを動かさないよう伝えてくるから少しだけ待っていて――。この列車内で具合が悪くなるのはごく自然なことなので心配はいりません。それに、あなたは、この状態ではきっと動けませんよね」
余裕たっぷりに笑う沖矢さんは、私の首元にはっきりわかるようなキスマークを刻むと、部屋から出て行く。
「昴さん、こんなところに居たんだ? 名古屋まで行かなくて済んで本当に良かったけど――」
コナン君の声が聞こえてきた。
「そうですね。――ところで、哀ちゃんは?」
「ああ、灰原なら博士がおぶっていってくれた。昴さんはこれからどうするの?」
「私には急用ができてしまったので、よければ、これから先、有希子さんとご一緒していただけませんか?」
「そうなんだ? わかった。――あ、キッドから電話だ、やべえ」なんて言いながら、コナン君が走り出した足音が聞こえてきた。
しばらくして、沖矢さんが戻ってくる。
「少しは回復しましたか?」
手渡されたペットボトルを受け取って、水を飲めるくらいには動けるようになっていた。
「はい――」
おかげさまで、とも言い難くて私は目を逸らす。沖矢さんは悪びれた風もなく私の頭を撫でた。
「線路そのものが破壊されたので、復旧工事が終わるまでここからの上り列車は全線不通です。新幹線を使ってもいいが、おそらく先ほどの面々はそのルートを利用するはず。ですから、私たちは車を借りて東京まで帰りましょう」
――線路壊れたの? やばくない?
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作者名:まつり | 作成日時:2022年11月25日 12時