ミステリートレイン14 ページ21
しばらくして、沖矢さんは帰ってくると「志保に逃げられた」とぼそりといった。
――志保って誰?
って一瞬思ったけど、この流れだと哀ちゃんだよね。
ベルモットはシャロンで、哀ちゃんは志保。コナン君は新一で、キッド君はカイト(多分)。
単語帳でも作って整理しておきたいけれど、実際は全て完全にシークレットだから文字に残すなんて厳禁。
難易度高いな……。私、家族が亡くなった後、元の名字との違いを、漢字表記の変更だけに留めておいてもらえて本当に良かった。
.
哀ちゃんと沖矢さんが何を話したか聞いていないけれど、きっと、圧倒的な沖矢さんの説明不足だと思う。
この際、私以外の人に対しても、きちんと言葉を尽くした方がいいのでは?
でもまあ、急に変われっていっても無理だよね。
そして、今はそんなことを語っている時間もない。
「わかった。私が哀ちゃんを探すから、沖矢さんはマスミのことを探した方がいいんじゃない?」
当初の予定通り列車は止まらずに終点まで行くと先ほどアナウンスが入ったばかりだ。
その時、沖矢さんのスマホにメールが入った。
「真純の居場所がわかった。君はここに。あるいは一緒に――」
「私は1人で哀ちゃんを探すわ。心配だもん。一緒じゃない方がいいでしょう?」
沖矢さんが一緒に居るからって逃げられたら本末転倒だ。それに、私がこの列車内でそれほど誰かに命を狙われるとは思えない。
零だって、他の組織のメンバーが居るのにあえて私に気軽に声をかけたりはしないだろう。私が話しかければ応じてくれると思うけど、他人のふりをしていればスルーしてくれる、はず。
心配なのはシュウの方だ。私といるとすぐに赤井秀一に戻ってしまう。
――多分、私が悪いんだけど。
私は背伸びして、沖矢さんに手を伸ばす。口紅は誰かのせいでとっくに落ちている。塗りなおさないと、と思いながら、かがんでくれた彼の、ハイネックの上、耳の下にキスをした。
「くれぐれも気を付けてね、沖矢昴さん」
沖矢さんは目を丸くして驚いて、ふわりと笑みをこぼす。
きっと自分が心配されるなんて夢にも思ってなかったに違いない。
「そうですね、ありがとう。気を付けます。
彼女を見つけたら、保護しておいてください。場所はこのメモに。見つけ次第、メールで連絡を」
渡されたメモに目を通す。
「了解――また後で」
私はごく軽い口調でそう告げると、彼よりも一足早く部屋を出た。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年11月25日 12時