ミステリートレイン9 ページ16
「うん……。わかった」
変装のプロがいうんだから、間違いないんだろう。
「は――、お姉さん、ずるい。ほんっと可愛い。こんな姿じゃなかったらここで――」
身を寄せようとするキッド君(見た目は中年女性)からなんとかして距離を取る。さすが鈴木財閥の作った列車だけあって、お手洗いもそれなりに広さがとってあるのは助かる。
だって、うっかり太ももにでも触れたら、拳銃持ってることがバレかねない。
まあ、キッド君もたぶん銃刀法違反系の人だし、何より警察に追われている身だから、彼が私を警察に突き出すってことはないと思うけど、拳銃の出所を探られたら沖矢さんが【暇な大学院生】って言い張れなくなって、困る。
「お姉さんは未成年とは付き合わないの。でも助けてくれてありがとう」
お礼に頬にキスでもしようかと思ったけど、変装しているからやめておいた。
メイク?が崩れたら困るものね。
キッドの場合、手さえ「本物」とは言い難いから困る。
「へー。そういうこというんだ。こっちは変装のプロだっつーの。高校生の姿だって、仮の姿かもしれないぜ?」
そんな中年女性の姿で言われてもいまいち説得力があるんだかないんだかわからない。
「とにかく、黒服のイケメンには近づかないわ。ご忠告どうもありがとう。忙しいんでしょ。仕事に戻って? 時差で出た方がいいよね?」
「いや、足音聞こえないから多分平気。なんか、この列車すごくやばい空気してっから、本当に気をつけろよ?」
くしゃりと頭を撫でられた。
高校生に助けられるとか、ほんっとどうなんだ。――って思うけど、まあ相手は天下の奇術師だし、仕方ないか。
何の仕事をしているのかは、聞かないでおいた方がお互いのためだよね。
私たちはタイミングを見計らって、人目につかぬよう、お手洗いからそっと抜け出した。
私は部屋に戻る途中の通路で、沖矢さんに出会ってしまう。
「この狭い列車のどこで迷子になるんですか?」と問われるけど、私は別に迷子になったわけでは――。
「実は、私にとってすごく顔なじみのある、頬に火傷のある黒服の男を見かけたからびっくりして身を潜めていたの」
私は事実を少しだけ捻じ曲げて、情報を渡した。
「それって――」
沖矢さんはため息をつくと
「そもそもどうして勝手に部屋を出たんですか」と言う。
「それは悲鳴が気になったから」
「列車内のイベントです」沖矢さんは、何も知らないにもほどがあると、苦笑する。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年11月25日 12時