敵の敵15 ページ49
「終了っと」
私は我に返ってパソコンの電源を落とす。
一人で作業をしていたつもりだったので
「お疲れ様」と、突然低くていい声が後ろで響いてびっくりした。
振り向けば、部屋の隅のソファにシュウが座っていた。
おそらく、その手に持っているタブレットを見ていたのだろう。
「君があんまり集中しているから、声がかけられなかった」
――いや、気配消しすぎでしょう。
「心配しなくても、画面は見ていない」
「そんなこと、心配してないよ」
彼のことを信じていなければ、ここに機材を運び込んだりはしない。
だって、鍵をかけたってロックをかけたって、本気になったシュウの前ではほぼ無意味だ。
私は立ち上がって伸びをする。いつものことながら、全身のこわばりを感じた。本当は1時間ごとに身体を動かした方がいいんだけど、そんなことをしていたら仕事は前には進まない。
週末は身体を動かした方が良さそうかも。
「Aは本当に、集中力が高すぎて心配になる。おいで」
おいで、なんて言ったくせに振り向いた瞬間にはもう目の前にいて、私を抱きしめたりするからずるいよね。お風呂上がりのいい匂いがする。
「拳銃持っているシュウだってすごい集中力だよ?」
練習でああなんだから、本番で発揮する集中力はきっととんでもないものなんだろう。
「――まあ、そうだな。遅い時間だが、何か食べる? 君の好きなアイスを買い足してある。一緒に飲むなら付き合うし、このまま眠るならそれでもいい。君の疲れが癒えることならなんでも付き合おう」
大きな手が私を撫でていくのは本当に心地よくて、無意識のうちに鼻をすりつけてしまう。
シュウは多分、私のこの仕草をみて、Kittyと呼ぶんだと思う。
「明日、ジムに行ってもいい?別に、近江谷君に会いに行くわけじゃないからね?」
シュウが嫉妬深いのは本当に意外だ。
ジョディと話していても、全然そんな感じは伝わってこないんだけどな。
「わかっている。午前中に行っておいで。その後一緒にランチでも食べて、射撃の練習でもどう?」
「そうする。あの近くに気になるお店があるの」
「どこにでも付き合おう」シュウは女性客しかいないようなファンシーなお店でも平気で付き合ってくれるから好き。――そのあたりは、沖矢さんの格好をしていても変わらない。いっそ、沖矢さんの柔らかい雰囲気の方が良く似合う。
広い胸から顔をあげるとシュウは身をかがめてとびきり甘くて優しいキスを、私の唇に落とした。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年11月25日 12時