ミステリートレイン12 ページ19
「あのね……」
有希子さんが話そうとしたとき、車内放送がかかった。
車内で事故があったので、途中で止まることを検討中だという。
「事故?」
車内で事故って、どういう意味だろう。
外もがぜん騒がしくなった気配がした。
沖矢さんがわずかに扉を開けると、
扉の向こうから、蘭ちゃんと園子ちゃんと――【安室さん】が会話をしている声が聞こえてきた。
――そっか。
本当に零にとってはごく普通に、【安室さん】にも【バーボン】にもなれるわけで、それが彼の日常なんだね。
突然、すごく遠くの世界の人になったみたいに思えたけど、私が知らなかっただけで零はずっとそうやって過ごしてたんだよね。不思議。
今、私がここから出て零の前に足を進めたら、「乗車されていたなんて知りませんでした、奇遇ですね」なんて、穏やかな口調で言って、いつものように誰の気持ちも一瞬でつかむような極上の笑顔を浮かべて見せるのだろう。
蘭ちゃんの話によると、どうやら、8号車で本物の殺人事件があったみたい。
コナン君と、マスミが現場で捜査中だとか。
とりあえずこれで、マスミがどこにいるかという問題は解決して良かった。
沖矢さんは有希子さんに「どうやら天は我々に味方しているようですね」なんて穏やかな口調で言っているけど。
本気でそう思っているの?
だって、誰かがこの列車内で殺されたんだよ――。味方って何? どういう意味? 列車が止まると助かるってこと?
FBIとか潜入捜査なんてやっていると、殺人事件が起きても動揺しなくなるんだろうか。
本当に今年になってから、殺人事件に出くわす率がものすごく上がっている。
殺人事件なんて、ニュースで聞くだけの話だと思っていたのに。
頭の中に、キャンプ場で見た女性の遺体が浮かんで気分が悪くなりそうだ。
いつだって、動揺しているのは私だけだ。
有希子さんも平然とメールを打っているからすごい。
列車の走行音が心地よく響く部屋の中で、露骨にため息をつくわけにもいかず、私はあれこれ飲み込んで、窓の外に目をやった。さっき遠くで煙が上がっていたのを見かけたけれど、その風景も遠くに流れてしまっていた。
本当にもうすぐ列車が止まるんだろうか。
そうしたら、捜査が始まっちゃう?
「Aちゃんはここに居てくれるだけで何の問題もないの。本当よ?私、折角だから今のうちにシャロンに挨拶してくるわね」と、有希子さんは部屋を出て行ってしまう。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年11月25日 12時