秘密の共有14 ページ42
私は沖矢さんからの電話を切ってため息をついた。
さっき念のためキッドに電話をかけて「何か沖矢さんが気になることがあるって言ってるの。万が一何かわかったら君のスマホに直接電話があると思うからそれだけ出てあげてくれない?何があったのかは私にはさっぱり分かんないけど、あのポーカーフェイスが血相変えてたからそれなりの情報かも」という話だけはしておいてよかった。
私は沖矢さんに言われた場所に車を止める。
遠くから、「キッド!キッド!」というキッドコールが聞こえてきてちょっと羨ましい。沖矢さんと一緒に来なければ私もその中に居られたのに――。
でも、その結果キッド君が銃撃されるのを目の当たりにするのはいたたまれない。
沖矢さんと一緒にきて良かった――ということになるのだろう。
私はぐるりとあたりを見回す。
木々の向こうに黒い服を着て歩いている二人組の男が目に入って心臓が跳ねる。
――黒い服。
確かにそれだけではなんの目印にもならない。
目新しくもない。
だから、コナン君がどうしてそんな通称をつけているのか全く分からなかった。
――しかし、『明らかに雰囲気の違う大柄な男が、特徴的な黒い服を身に纏って二人連れで歩いている』という場合は別だ。
長身の男の、黒い帽子の下から伸びていたのは銀色の長い髪だった。
でも、ちらりと一瞬見ただけだったし、沖矢さんから車で待っていろと言われた以上、彼らを追いかけるわけにもいかない。
だいたい、シュウの過保護ぶりは尋常ではない。そんな彼が珍しくそれなりに危険な場所で私を信用して一人にさせてくれているのだ。
ここで万が一にも彼の信用を裏切ったら、過保護と執着のレベルはさらに上がるとしか思えない。
遠くから聞こえる銃声や、悲鳴や騒ぎや拍手喝さいがいったい何であったのか――。私が知るのはもう少しあとになるのだった。
.
車に戻ってきてくれた沖矢さんの話だとこうだ。
屋上に上がったキッドに向けて発砲された。一瞬周りに悲愴な悲鳴が上がったが、キッドの姿はみるみるうちに鳩に変わる。拍手喝さいの中、男は秘密裏に警察に取り押さえられ、一方、しばらくの後怪盗キッドはもう一度屋上に現れると一礼して今度は空へと飛び立っていったという。
スバル360のアクセルを踏みながら「無事だったのね」と言えば
「ええ、きっとまたあなたをデートに誘ってくる。その時は必ず私も同行します」と強い口調で言ってくるのだった。
117人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:まつり | 作成日時:2022年11月8日 10時