秘密の共有10 ページ38
時刻はもうすぐ11時だ。
後1時間ちょっとで、ショウタイム。
美術館から少し離れれば、人の数はぐんと減る。
沖矢さんが黙って付き合ってくれるのをいいことに、私は足の向くままに公園を歩いた。
「何を探してるんですか？」
あちらこちらで足を止めては美術館を見上げている私を見て、ついに沖矢さんが口を開いた。
「近くは人多いし、どこからならよくキッドが見えるかなと思って。
あ、沖矢さん、退屈ならどこかで休んでくれていいですよ？ 私後で迎えに行くよ？」
やれやれ、と、沖矢さんは微笑を浮かべる。
「だって、近いとキッドに攫われないか心配って言うでしょう？」
「まあ、確かに。だったら、さっきの場所が一番良さそうですね」
「そうなの？」
「ええ。私が銃を向けるなら、そこから撃つなと思いながらみていたもので」
「撃つのはダメ！」
スナイパーの発想は物騒過ぎて怖いんですけど。
「いや、さすがに今はライフルは持ってないから心配は要りません」ってサラッと言うのもやめてください。
そんなわけで、沖矢さんに眺めの良い場所に連れて行ってもらった。
確かに真っ直ぐに美術館の屋上が見えるし、この時間「太陽が眩しい」と感じることもない。
穴場とはいえ同じように感じる人もいるようで、ちらほらと人がいた。
沖矢さんはジャケットから双眼鏡を取り出した。そのジャケットの内ポケット、他に何が入っているの？
しばらく周りを見回していたが、唐突に彼の纏う空気感が変わった。
私の背中を庇うように彼は腕の中に私を抱き寄せる。とはいえ、周りから見ればたぶん仲の良い恋人同士のハグにしか見えないはず。
もはやこれは沖矢昴ではなく赤井秀一そのものだ――と思うけれど、何も知らない周囲の人たちがそんな些細な違いに気づくことはない。そもそも、皆、美術館に目をやっている。私だって、これまでのささやかな積み重ねがなければ気づかなかった。
例えば、いつか泊まったレストランで殺人事件に遭遇した時や、銀行強盗に巻き込まれて助けてくれた時のことを思い出す。
ジャングルで数日ぶりに獲物を見つけた肉食獣は、こういう雰囲気を見せるのかもしれない。平和な街で久方ぶりに事件を見つけた探偵も、おそらくそう。
そして、今の赤井秀一は――狩るべき相手を見つけたスナイパーに他ならなかった。
でも、こんな平和な公園のいったいどこにそんな物騒なものが？
まさか、本気でキッド君を狙うわけじゃないよね？ だめだよ？
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作者名：まつり
| 作成日時：2022年11月8日 10時
