秘密の共有5 ページ33
明日、木曜日は七夕。そして私は有給休暇。
「明日はお休みだからのんびりするんだー」と言ったら、明日着るスーツや書類の準備をしていた零は私の前にきて、手の甲で愛しそうに頬を撫でた。
「今夜は君の部屋で眠らせてくれないか? 僕は明日朝が早いから、起こしたくない。せっかくの休日なんだから、たまにはゆっくり眠ってほしい」という。
数日ポアロに出ていた零は、家でもとても【安室透】の雰囲気が強くなる。
優しくて甘くて面倒見が良くて気遣いができて――多分それは元来の零が持っている素質なんだけど、そのすべてをとても素直に見せてくれる。
これが【降谷零】の色が濃くなると、その気遣いや心配の多くが皮肉で彩られて説教に変わるのだ。
他人を演じている方が感情表現が素直でストレートになるって不思議。でも、そのくらい武装していないと【降谷零】としての人生はとてもじゃないと務まらないんだろう。
時折零れる言葉の端々から、彼の強すぎる痛みが伝わってくることがある。でも、そんな風に人生を垣間見せてくれるくらい私に心を許してくれていることはとても嬉しかった。
どんな事情があるにせよ、零が安室透を演じてくれて良かったなと心から思う。
素直な自分を出せる世界を知れて、本当に良かった、はず。
明日公安に出勤してしまったらこの雰囲気ががらりと変わってしまうのは、残念な気もして私は零の手を引っ張って座らせてその腕の中に飛び込んだ。
「そんなに疲れているように見える?」
「最近のAは、毎日きちんと食事を食べて、布団に入ったらすぐに眠っている」
「それって普通の人の普通の過ごし方だよね?」
「そうとも言うな」
「零もきちんと眠ってる?」
「当然だろう? ふと目が覚めてベッドから抜け出そうとするたびに、眠っている君が縋りついてくるから宥めている間に眠ってしまう」
「もしかして、困ってる?」
仕事の邪魔だったりするだろうか。
「いや。ありがたいと思っているよ。本当に困るなら、きちんと抜け出すから何も心配しなくていい」
ことさら優しい笑顔で甘いキスを落とすと、ほら、移動が面倒になる前に部屋を移ろう、君の朝食はこっちの冷蔵庫に入れておくから気が向いたら食べるといい、と、眠りを誘うような温かい声で囁いた。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年11月8日 10時