記憶の扉 ページ14
『そう。
だから、あなたの存在は、秘密にしないといけなかったの。
最初から双子であることが知られていたら、マジックにならないじゃない?』
頭の中で昏い声が響く。
あれは、誰の声だったのか――
マジシャンの両親は、双子の妹であった私の存在をはじめから抹消していたのだ。
――マジックで観客を驚かせるために。マジックの精度をあげるために。ただそれだけのために、私の存在を隠匿した――
私は実家とは離れた場所にある祖母の家で育った。
幸い祖母は元学校の先生だったので、教育は十分に受けられたと思う。
とはいえ
だから、学校に行ってない。
だから、友達なんていない。
だから、私には苗字なんてない。
幼馴染もいない、同僚もいない。
働く方法なんて知らなかったから。
祖母の遺産として、お金だけはたくさんあったから生活には困らなかったけれど――
思い出したくなかった、秘密の扉をどうして私は自分でこじ開けてしまったのだろう――。
両親と双子の姉とはもうずいぶん長い間音信不通だ。
「どうかしたの? Aさん」
突然言葉を止めてしまった私を、心配そうにコナン君が覗き込んできた。
「あ、ううん。
マジシャンだったら、最初に見せる手札は観客の目をごまかすためのまやかしであるべきでしょ?
だから、予告状が事実とは限らなくてもいいのに――って思っただけ。
まあ、キッドの場合は、マジシャンじゃなくて怪盗としての美意識ってところなのかもしれないわね」
「怪盗とマジシャン、悪くねー組み合わせだけどそれはやっぱり夢見すぎなんじゃないかな?」
新一君が肩をすくめる。
「まあ、安直すぎたかもね」
私は無理やり笑ってみせて、話を終わらせる。
タイミングよく、スマホが震えたのでそれを握って部屋を飛び出した。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年5月19日 15時