米花百貨店にて1 ページ32
翌日、私たちは米花百貨店へと足を運んだ。
赤い長そでシャツの謎……を解きにスポーツ用品店に向かうことにした。私は、先を行く毛利探偵・蘭ちゃん・コナン君の背中を追って歩いていた。
でも、目の端にジョディとキャメルが足早に歩いているのが見えて、つい一人立ち止まってしまった。日曜日も仕事なんだ。何をしているんだろう。ジョディとは結局銀行ではぐれてそれっきりになっている。声をかけた方がいいかしら? それとも、見て見ぬ振りが正解――? と考えたそのとき、ふいに背後からふわりと鼻に馴染んだ煙草の香りがして胸がどきりと跳ねた。
赤井秀一が好んだ煙草の匂い。
いやもちろん、この銘柄を好むヘビースモーカーは世の中に多数いるはず。わかっているけれど、私はそちらを見ずにはいられなかった。
考える前に視線を向ければ、そこには彼が好んで身につけており、既にトレードマーク化している黒い服に身を包んでいる赤井秀一が居た。
昼休みや仕事が終わったときに、彼はよく私の会社の入り口付近で所在なさげに壁にもたれて私を待っていてくれた頃の姿そのもので胸がときめく。
ちなみに、沖矢さんが工藤邸でその服装を身につけた姿はまだみていない。
.
――嘘、なのに。
私はよりにもよって本人から、この男は絶対に偽物って、聞かされているのに。
それでも、今日人ごみの中に立っている赤井秀一は間違いなく本人だった。
私の視線に気づいたのか、彼は足を止め私を見て目を丸くした後ふわりと、およそ他の人には見せないような甘い笑みをその口元に一瞬乗せるから胸が高鳴る。
――頬に火傷のある男は偽物。
そんな言葉は一瞬にして圧倒的な存在感の前に、煙のように消えて行ってしまう。
考えるよりも前にその男の背中を追いかけていた。
彼はおよそ、監視カメラにも映らないような死角に私を誘い込み大きな体躯でぎゅうと私をその胸の中に抱きしめた。
何か話そうとする言葉は、しい、と、人差し指を目の前に立てて止められる。
彼は私の耳に唇を寄せ、声帯を震わせないほどかすれた声で英語で囁いた。
「It's not safe out here,Kitty.Get out of here.(ここは危険だ、Kitty。外に出てくれないか)」
あまりにもその喋り方がシュウでしかなくて、驚いている間に彼は立ち去ってしまう。
半歩おくれて彼を追いかけたけれど、もう売り場の中にその姿を見つけることはできなかった。
123人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
まつり(プロフ) - おさょさん» ありがとうございますー!スパダリいいですよね。 (2022年10月15日 15時) (レス) id: 40409137ce (このIDを非表示/違反報告)
おさょ(プロフ) - スパダリ最高です!ありがとうございます0(:3 )〜 ('、3_ヽ)_ (2022年10月15日 15時) (レス) @page3 id: ab6fcf8d72 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:まつり | 作成日時:2022年10月14日 21時