有給休暇の過ごし方8 ページ22
迎えに来てくれた零は、スーツ姿で、かすかに硝煙の匂いがした。
「僕が居ない間に困ったことは?」
車内でそんなことを聞く。
「困ったことしかなかったから、何から話したらいいのか全然わかんないんだけど。会社は有給取れって言われるから暇を持て余すし、私に美味しいコーヒーを淹れてくれる人はいないし、挙句の果てには再び銀行強盗を目撃するし、シュウの幻覚は見るし、もう散々」
他にもあと1000くらいあるけど聞く? というと「そうだな、聞いてあげたいが全部覚えてあげられるかどうか自信がない」と苦笑した。
「そもそも、私は零が居てくれないと駄目なの。わかってる?」
「わかってる。ほら、そんなに拗ねないので。今日は何が食べたい?君の食べたいものを作るから」と、すぐに食事で誤魔化す。
「コーヒー」
「それは明日の朝。ね?」
「チョコレート、アイスクリーム」
「それは食後のデザート」
「――他には何もない」
「困ったな」と零は言うと、ハンドルから片手をはなし、宥めるように私の頭を撫でる。
「悪かった。本当に―ー」
「私のこと、忘れてない?」
「Aに、ずっと逢いたかった」
どこかの金髪美女よりも? と聞いてみようかと思ったけれどやめておいた。
それを口にするともう、自分の気持ちを立て直すきっかけがなくなりそうだ。
忙しい零と喧嘩してしまったら、仲直りの時間が取れないかもしれない。
「もうずっと一緒?」
「次の土日が終われば――、そうだな。しばらく一緒に居る、約束だ」
「じゃあ明日は? 私、仕事休みなんだけど」
「では、丸一日君と過ごす。日本のどこかでテロ絡みの大事件でも起きない限り」
なんて、縁起でもないフラグを立てるから困る。
.
いつも寄らないような広いスーパーであれこれ買い込んで、零の家に帰った。
零が料理をしている間に、私は自分の部屋に寄ってバーボンを取り出す。
「零って確か、ウイスキー飲むよね? これ、あげる」
「これは……」
「バーボンと煙草で、シュウの匂いが再現できるかなって思ったけど、なんか別にそうでもなかったし、もういいの。幻覚を見るくらいなら、いらない。よかったら貰って? 知ってのとおり、私ウイスキー飲めないから。要らなかったら棄てる」
「だったら頂くよ、ありがとう」
零はバーボンの瓶を受け取ると、「料理ができたから食べよう?」と言う。
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まつり(プロフ) - おさょさん» ありがとうございますー!スパダリいいですよね。 (2022年10月15日 15時) (レス) id: 40409137ce (このIDを非表示/違反報告)
おさょ(プロフ) - スパダリ最高です!ありがとうございます0(:3 )〜 ('、3_ヽ)_ (2022年10月15日 15時) (レス) @page3 id: ab6fcf8d72 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まつり | 作成日時:2022年10月14日 21時