疑惑24 ページ47
内線で呼び出されたので、私はジェイムズ・ブラックの部屋へと足を運んだ。
「失礼します」
「やあ、お疲れ様です」と、沖矢昴が涼しい顔をして紅茶を嗜んでいるので、扉を閉めて出て行こうかと一瞬思ったほどだ。
「鍵を閉めて」とジェイムズに言われたので、やむなく従う。
――えっと、どっから入ってきたの? もしや非常口?
「ほら、毎回あなたが居る時に事務所に来ると勘ぐられるじゃないですか」って平然と言うけど、ジェイムズがここのトップなんじゃないの? ジェイムズはいいの?
「いいんだ――A。私はそもそも【彼】のことを知っている」
と、ジェイムズがどう切り出したらいいのかわからない表情で言ってきた。
「はぁ……。あ、呼ばれたついでに私、お願いしたいことがあったんですがよろしいですか?」
とりあえず、どう対応していいのかよくわからない人のことはスルーしておく。
「ああ、もちろん、かまわんよ」ジェイムズは親切だ。
「来週、お休みしても大丈夫ですか? 今の感じだと特に業務には差しさわりはないのですが」
「ああ、もちろん。【彼】からも今そう聞いたから君に来てもらったところだ」
と、ジェイムズが沖矢さんに視線を向けてそう言った。
もはや、これってジェイムズは最初からシュウが偽装死だって知ってたってことでいいのかな? 合ってる?
「立ち話も何なんで一緒に紅茶でもどうかね?私はもっぱらコーヒー好きだが、イギリス仕込みの紅茶はそれはそれで悪くない」などとすすめられて――もはや断る気力もなく、私は沖矢さんの隣のソファに腰を下ろし、得意げに沖矢さんが淹れてくれた紅茶をいただく。
「どうもありがとうございます」美味しい紅茶に罪はない。
「みんなよそよそしいんですけど、もしかしてそろそろ日本から撤退します?」
「いや、そうじゃないんだよ。君には言いづらいんだろう。
赤井秀一が生きているというここ最近、目撃証言が相次いでいてね」
なるほどね――。沖矢さんがここにいる理由がなんとなくわかった気がする。
「死後も目撃されるなんて、人気者ですね」
他にどういえばいいのかわからない。
「ぜひ、詳しい話を聞きだしてきていただけませんか? できるだけ詳細な場所と時間が知りたいのですが。ジェイムズよりはあなたが適任かと思いまして」
沖矢さんに優雅に微笑まれてそんなことを依頼されても困る。
――飲みかけの紅茶、返品してもいいですか?
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作者名:まつり | 作成日時:2022年10月6日 10時