新たな日常9 ページ5
いつも残業していると知った総務部のユカちゃんが「今日は一緒に飲みに行こう？」と誘ってくれたので、私は久しぶりに定時で帰ることにする。
そういえば今日は金曜日だ。
シュウが居なくなって丁度一週間。――そして、零とも顔を合わせてはいない。結局、零は「赤井秀一が好きな女」に興味があっただけなのかもしれない――。
そんなこと、絶対にないはずなのについそう思いたくなってしまう。
「で、どこに飲みに行く？」と、ユカちゃんと話しながら会社を出ようとしたその時――
いつもシュウの立っていた場所に、零が居て驚いた。
白シャツにジーンズと言うカジュアルないでたちは、ポアロの安室透からエプロンを差し引いた姿だ。
「彼氏？ 良かったね。仲直りした方がいいよ、きっと。飲みに行くのはまたにしよう？」気の利くユカちゃんはにこりと笑うと先に帰ってしまう。
「――零――。久しぶりー―連絡してくれればよかったのに」
「今夜も残業かと思って――。ずっとここで待っておくつもりだった」
そういうと、零はひどく切ない顔で私を見つめ、唐突に場もわきまえずに私を腕の中に抱きしめた。彼の服からは、ポアロの美味しそうな匂いがする。
「A、ごめん――。一週間も放っておいて悪かった。一緒に帰ろう」
零は私の予定も聞かずに手を握って歩き出す。
「だって零は多忙だから、仕方ない――」
「いや、時間配分が下手なだけだ。それに、物わかりのいい君に甘え過ぎていた。どこかに食事に行く？ それとも家で君の食べたいものを作ろうか？ それなら、しばらく帰宅してないから、材料を買って帰る」
「急にどうしたの？」
近くに止めていた白のRX-7に乗り込む零に聞く。
「――自分の態度を反省した。君のことをもっと考えるべきだった」
「いいよ、別に。零の最優先は仕事。変えられるわけないわ。私は私で楽しくやっている。心配しないで？」
だから私への愛情が薄い、なんてことは思わない。
仕事も完璧以上にこなす上に、必ず同じ曜日の同じ時間に何もなかったかのように送迎して、食事を楽しむシュウがだいぶやばいだけなのだ。あの人は規格外。凡人には見習えない。
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作者名：まつり
| 作成日時：2022年10月6日 10時
