疑惑17 ページ40
「おや、借りてきた猫みたいにおとなしくなりましたね」
もう、本当に立ち位置と振舞い方が分からなくなってきたので帰りの車では、沈みゆく美しい太陽を眺めることに徹し、あえて口を開かなかったら、沖矢さんの方から声をかけてきた。
「はい、私のことは借りてきた猫だとでも思ってください」
そして、近い将来
「それは困りました。――私にも懐いてくれると嬉しいのですが」
さほど困った風もなくそう言うと、沖矢さんはふわりと微笑み手を伸ばして私の頭を撫でる。
「もしかして、怖い思いをさせましたか？――ああ、でも震えてはないようですが」
「拳銃なんて……急に見せられても怖いだけです」
おや、と、沖矢さんはほんの一瞬片目を丸くする。
「だから、前もって見せたじゃないですか。
あなたが私を信頼してくれているなら、私がこっそり銃を持っていても構わないと思いますよ。何かあったら私の傍に来てくれるはず。
でも、あなたはどうもまだ私を警戒している。万が一どこかで銃が必要になって、その時に私が急に取り出したりしたら、あなたは怯えてどこかに行ってしまうでしょう？
でも、最初からあなたの銃を私が持っているていにしておけば、少しは安心してくれるんじゃないかと思いまして。
――やっぱり自分で持ちたかった？」
ものすごく不思議そうに首を傾げられても――。
あの状況で、そんな思考と気持ちを読み取れる人なんている？
それとも私の理解力の問題なんだろうか。
「いえ――、私、銃の扱い方なんて知らないので持っていても意味はないかと――」
「なるほど――では、私が教えて差し上げましょう。思っているよりもずっと、簡単ですよ。自分で扱えるようになれば、きっと、恐怖心も半減します」
こう見えて、意外と撃つだけでなく教え方も上手いんですよ。あまり誰も信じてくれないんですが――とか余裕綽々で言われても困る。
――本当にシュウなの？
いやでも、私の言葉を曲解した挙句、とても親切丁寧に的外れのアドバイスをくれるのは、赤井秀一の得意技だよね――。
そして、なんだかんだ10万ドルにほど近いお金を私の部屋に置いていったように、いつか当然のように銃の撃ち方も教えてくれるのかもしれなかった。
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作者名：まつり
| 作成日時：2022年10月6日 10時
