疑惑16 ページ39
階段を移動するときは一切足音を立てなかったのに、突然革靴で音を立てながら沖矢さんが歩き始めて驚いた。
――足音ってそうやって意図的に出したり消したりできるもの？
私はスニーカーなので特に響かせるような足音はない。沖矢さんはハンカチを手に巻いて、何の迷いもせずある一つの部屋の扉を開ける。
そこには、びくついた顔の――コナン君や哀ちゃんと少年探偵団のみんなが居た。
沖矢さんはここにきたいきさつを端的に告げた。
「何度呼び鈴を押しても反応がなくて途方に暮れているAさんを見つけまして――」の言葉に、警戒心を目に浮かべた哀ちゃんは若干胸をなでおろす。
「そうなの。留守電きいたから今日は哀ちゃんの家にお邪魔しようと思って押しかけたんだけど――。大変なことに巻き込まれていたのね？」
私がそうやって子どもたちと話をしている間に、沖矢さんはロッカーの中から阿笠博士を助け出している。
いやー、阿笠博士をかるがるとロッカーから引き出せるあたりで、だいぶ何か隠しきれていないものがあると思うんですけど……。
そこには触れないことにして、私は歩美ちゃんたちから今日の一連の話を聞いた。こんな風に怖い目に遭っても引きずることなく、ちょっと冒険譚みたいなテンションで事件を楽しく語れるメンタルが私も欲しい。羨ましい。
コナン君が警察を呼ぶのを見届けると、沖矢さんは明日の昼子供たちにカレーを差し入れることを約束したうえで「では私たちは他の不審者が来ないよう下で見張っておきますね、Aさん、行きましょうか」とごく自然に声をかけてきた。
「ねえ、今夜泊まりに来てくれる？」哀ちゃんはそれでも素直に私を誘ってくれるのでほっとした。
「もちろん、あとでお邪魔するね」バイバイと手を振って、私は一足早く部屋を出た沖矢さんを追いかけた。
沖矢さんはもちろん、警察の到着を車で見届けて――彼らとは出くわさないように無関係な人みたいに車をすすめる。
銀行強盗の時と同じように、まるで最初からこんな現場には居なかったみたいに――装った。
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作者名：まつり
| 作成日時：2022年10月6日 10時
