疑惑15 ページ38
「非常階段から上がってみましょうか……。人の気配が――、よければ、これ、使います?」
とか、ものすごく気軽な感じで、しかも特に悪意もなさそうに拳銃を渡してくるのやめてもらえますか? 怖い上に、使い方がわかりません。
あと、ぶっつけ本番で使うようなものではないと思うんですけど。もしかして、私のことFBIの関係者だと勘違いしています?
「無理です」――と声を出すこともできないので唇だけ動かして首を横に振る。
「そうですか――。割と使いやすいタイプなのですが」
まるで私が断るなんて思ってもいなかったような口調でそう言うと、では、仕方がないですねと沖矢さんは拳銃をしまい、右手を伸ばして私の手を取った。
――この一連のやりとり、必要?
背筋にぞくりと冷たいものが走る。
私にはやはり、私の半歩先を警戒しながら歩く沖矢さんとシュウが同一人物だとは思えない。
違うのは単に「声と喋り方」「顔と表情」だけではない。
そういう、表面的な単純なことじゃなくてもっと深い何かが根本的に違うのではないかしら――。
彼の中に、喋り方だけでなく思考回路や癖、歩き方や仕草、彼の持つ雰囲気全てががらりと変わってしまうスイッチがあるとしか思えなかった。
それとも、ここまで含めてすべてが彼の「芝居のうち」なんだろうか。
どちらにせよ、万が一私がうっかり誰かに沖矢昴の正体を伝えたところで信じてもらえる気はしないし、私はやはりこれまで通り沖矢さんとシュウとは別人だと思って接し続けたい。
同一人物だと思うと、私の対応がままならない。――全体的に沖矢さんに対しては、「シュウ、やめて。冗談だよね?」「ねえ、本気で言ってる?」って聞きたくなることばかりだ。しかし、沖矢さんにはそう気さくに突っ込めるような隙がない。
階段にいた男をみつけると、沖矢さんは私に踊り場で待っているように指示を出し、ごく簡単に蹴散らした。自分の方が下に居たにもかかわらず、そのハンディが全くないどころか勝っているのがすごい。
私は滑り落ちてきた男を避け、沖矢さんが伸ばしてくれた手をおとなしく掴む。
しぃとまた「秘密」のポーズを見せるのは、これを探偵団の子どもたちには伝えるなと言うことなんだろう。
ええ、もちろん。もはやあなたと過ごす時間のことは、誰にも話す気はないのでご安心ください。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年10月6日 10時