アパート火災と少年探偵団10 ページ17
沖矢さんは今夜はホテルに泊まるというので、私は阿笠邸にほど近いスーパーまで送ってもらった。
歩いて行っても良かったのだけれど、先日の件があるから心配だと言ってくれた。
「あれは、警察に届けたんですか?」
「いいえ……。届け出るにはもう一度話さないといけないですし……。気持ち悪くて、無理」
思い出すだけで吐きそうだった。
「――すみません、余計なことを。でも、あなたが直接話す必要はありません。必要ならいつでも、私が代わりに――」
「ありがとうございます」
私は震えを抑えるべく、窓の外に目を向けた。平野課長に捕まった夜の出来事は結局、詳細を誰にも話していないのでずっと私の中で消化されずにくすぶっている恐怖だった。窓に映っている沖矢さんが、とても心配そうに私を見ていて、驚いた。
おそらく彼は私が見ていることになど気づいてないだろう。
彼は私の方に手を伸ばすかどうか躊躇して……。やめた。私はそっと窓から目を逸らす。降りるまでもう、どちらも何も言わなかった。
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零はすぐに迎えに来てくれた。
ついでに買い物するから店内で見て回ろうと言い、私の手を取る。
ポアロにほど近いスーパーなのに、いいのかなとドキドキするが零はそんな私を見て、僕が君を皆に見せびらかしたいだけだから気にしないでと笑う。
「今日、ポアロに行けなくて残念だったー。明日も仕事?」
「ええ、明日は朝から一緒に行こう。君はすぐに誰かに取られてしまうから心配だ」
と、零は冗談でもなさそうにそう言った。
「別にそういうわけじゃないもん――。そんなこといったら、安室さんだって皆の安室さんじゃん」
零は身をかがめて私の耳元に唇を寄せた。
「零はAだけのものだ」とか、唐突に言うから顔が真っ赤になる。
「何か、私にも作れるもの、ない?」
「きっとやる気になればすぐに何でも作れると思うけど、そうだな――。さくらんぼでパンナコッタでも作ってみる? 食べられるのは多分明日。それでよければ」
美味しそうなさくらんぼを、追加で手に取ってレジへと向かう。
このままの時間が続けばいいのにと思いながら、私は零の腕を強く掴んだ。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年10月6日 10時