Secret Talk1―降谷side― ページ7
そもそも、どうしてこんなことになったのか――
下着だけ身につけた体で僕は頭を巡らせずにはいられない。
赤井秀一は思いのほか手早く、疲れ切って意識を手放した彼女の身体を拭きホテルに備え付けのナイトウェアを着せた。煙草を咥えたままで、器用なことだ。
おそらく彼女にしか見せないであろう愛しさを全て込めたような優しい眼差しを注ぎ、乱れた髪をそっと整えて、今は一切反応のない唇にキスを落とす。
「飲むか」とわざわざ僕のためにいれてくれたウイスキーを手にしたときには少しは頭が回るようになっていた。
「――赤井はほんっとなんでも経験してるんだな」
『大丈夫、怖くない。何度も試したことがあるから平気。すぐに良くなるから、俺に任せてくれないか』最中、何度もそういって彼女を口説き言葉巧みに誘導する様を見て思い知る。その後の様子を見ても、おそらくその言葉に偽りはないんだろう。――何の経験を重ねてるんだよ、お前は。
ぷいと顔をそらしてそう皮肉を言う僕に、赤井は面白くもなさそうに肩をすくめた。
「若気の至りだ」
若気の至りの範疇が、僕とはだいぶ違う。どんな青春時代を送っていたのか――。まあ、絶対に知りたくはないのでこの話は掘り下げないことにする。
普段なら三倍くらい言い返すところだが、今日はもう心身共に疲弊していてそんな元気もなかった。それに、おそらく二人でまともに会話ができる機会などこうして、彼女が傍に居る時だけだ。たとえいまみたいに眠っているとしても。
「銀行での様子は見たか」先に切り出したのは赤井だった。
「ああ――あれは堪えた」僕は素直に感想を述べる。
銀行強盗にAが拳銃を突きつけられた時――。彼女の口元はとても嬉しそうに歪んだ笑みを見せた。
それはまるで、待ちわびた恋人がやっときてくれた――という表情にも似ていて、僕の胸を締め付ける。
赤井がわざわざ「一度だけ見れる」状況の動画を残しておいてくれた意味がよく分かった。
「いまだにAが、死にたがっているなんて思わなかった」
積極的に死を望んでいるわけではないにせよ、銃口を向けられてあんな風に微笑めるほどには――家族のもとに行きたいと願っているなんて――
無意識のうちに、頭をかきむしっていることに気が付いたのはしばらく沈黙が続いたからだ。
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まつり(プロフ) - さいさん» ありがとうございます!嬉しいです。 (6月4日 17時) (レス) id: 6a01f04095 (このIDを非表示/違反報告)
さい - めちゃくちゃおもしろいです!シリーズの最初から一気に読んじゃいました!この作品大好きです! (6月4日 17時) (レス) id: abd64666f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まつり | 作成日時:2022年9月12日 15時