ある日曜日5 ページ26
「ええ、そうですね」
涼しい顔でそう言った後、梓さんが空にした食器を洗い始めたのを見つつ、安室さんは私にだけ聞こえるように囁く。
「ちょっとバーボンをきかせすぎたかもしれません」
しい、と、私にだけ見えるように安室さんが唇の前に指を立ててみせる。
「確かに。ポアロで出すなら、生クリームを添えるのが良さそうですね。色合い的にも！」
同じものを食べたのなら、梓さんにこのウイスキーがわからないはずがない。全く触れないなんて逆に不自然だ。
――そこまで考えてようやく気が付いた。
梓さんが今洗い終えた皿と、私の皿の色は明らかに違うってことに――。
安室さんは私の目の前、空になったお皿をいつもと変わらぬ優雅な手つきで取ると、梓さんには渡さずに必要以上に洗剤を付けて洗い終えてしまう。――それはもちろん、ウイスキーの匂いを誤魔化すためだ。
「そうですね。これは今回だけの『特別な』デザートと言うことにしておきましょう」
そういって私の目をまっすぐ見つめてふわりと微笑みを見せる彼は、ただただ甘く優しくそこにいるだけの、砂糖菓子みたいな「安室透」ではなかった。
秘めた裏の顔を、わざと私にだけ見せて煽ってくる。――それは降谷零の素顔なのだろうか。でも、風見さんの態度から察すると降谷零はそんな裏があるような上司とも思えない。
私にはどうしても、さらに知らない彼の姿があるような気がして――それを早く見つけてくれと誘っているような気がして――ならなかった。
「おや、Aさん、顔が赤いですね？ 大丈夫ですか？」
人にひそやかに強い酒を盛っておいて、まるで何もなかったかのように心配そうにこちらを見るなんて、本当に悪い人だ。今の彼はとても飲食店で勤める人の態度ではない。
私は彼に誘われるままに奥のスタッフルームに足を運ぶ。
「勝手に一人で帰ったりしないでくださいね」耳元で囁かれる優しい声と、唇に落とされる熱いキス。
言いたいことがあるなら、言葉で教えてくれればいいのに。
零は相変わらず、わかりづらくて怖くて危険で厄介で、それでいて魅力的で素敵だから困る。
昨夜あんなに眠ったはずなのに、私は強い睡魔に誘われるままに眠りに落ちてしまった。
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まつり(プロフ) - さいさん» ありがとうございます！嬉しいです。 (6月4日 17時) (
レス) id: 6a01f04095 (このIDを非表示/違反報告)
さい - めちゃくちゃおもしろいです！シリーズの最初から一気に読んじゃいました！この作品大好きです！ (6月4日 17時) (レス) id: abd64666f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：まつり
| 作成日時：2022年9月12日 15時
