私の日常5 ページ1
「シュウ?」
震える私の唇から小さく漏れた彼の名前を、シュウは聞き逃したりはしなかった。
「ああ、そうだ。――もう大丈夫。怖かったな、よく頑張った、偉い」
きっともっとすごく凄惨などこかにいたはずなのに、シュウはそんなことは全く知らない、君が世界で一番大変な目にあったと言わんばかりに、大きな手でとても優しく頭を撫でてくれる。
「仕事は?」
「一時間くらい前に一区切りついて。君に会いに事務所に戻って本当に良かった」
「どうして――っ」
「ここを通りすがったときに、銀行のシャッターが下りているのが不自然だと感じたうえに、時間に正確な君が事務所にいなければ誰にでもわかる。
――少なくとも、俺にはわかる」
「なんで、私のスケジュール把握しているの?」
多分、事務所の人誰も知らないのに。
「どうして? もしかして会えない間、俺が君のことを気にかけてないとでも思ってた?」
困った恋人だな。これでは完全に俺の片思いだ、と囁きシュウがひときわ甘く微笑む。愛しい眼差しで私を見つめた。
「君の居場所を俺が把握していないとでも?――GPSが仕込めるのは何も、スマホだけじゃない」
蕩けるような甘い口調で怖いことをなんの悪意もなく言い出すあたりが、本当、相変わらず赤井秀一だ。
「ずるい。私はシュウの居場所なんて知らないのにっ」
でも、仕方ない。私は彼にGPSなんて仕込めない。
「――淋しかった」
そう言うと、困った顔で私にキスの雨を降らせてくる。でも、キスなんかで埋め合わせができると思わないで欲しい。
「会いたかった」
「だから会いに来た。このまま仕事をさぼってどこかに行こう。どこに行きたい? どうせ誰も君のスケジュールなんて知らない。急ぎの仕事はないんだろう?」
「でも、シュウ寝た方がいいよ?」
ひどい隈。せっかくのイケメンなのに、それに影をさすほどの濃い隈だ。
「Aに会う方が大事。――本当に、怪我がなくて良かった」
君に何かあったらとても正気ではいられないといい、「もう銀行になんか行くな」と本気の口調で言われた。
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まつり(プロフ) - さいさん» ありがとうございます!嬉しいです。 (6月4日 17時) (レス) id: 6a01f04095 (このIDを非表示/違反報告)
さい - めちゃくちゃおもしろいです!シリーズの最初から一気に読んじゃいました!この作品大好きです! (6月4日 17時) (レス) id: abd64666f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まつり | 作成日時:2022年9月12日 15時