distance2 ページ32
「違いますよ。でも、赤井さんのペースに合わせます」
見知らぬ人から急に距離を詰められたら怖いと思う。
困ったな、と、赤井さんは自分の髪をくしゃりと撫で、グリーンの瞳で私を見つめた。
当然のように見栄えのよさは健在で、まっすぐ見つめられるだけでドキドキする。
「俺は君の望む距離感に合わせたい」
「びっくりするほど近かったらどうします?」
「もちろん、どんな望みにでも応えるよ」
赤井さんは、特段甘さを称えた瞳で私を見つめたりはしないけれど、それでも威圧的な雰囲気は消えていて、前よりずっと話しやすくてほっとする。
「驚かれるかもしれないですけど、私たち、一緒に暮らしていたんです。しかも私、明日退院って言われて――。
だから、一回、家を出て距離を取ろうと思ってるんです。その距離感でいいですか?」
感情がはいると喋れなくなりそうなので、一息に告げた。
赤井さんは一瞬固まって、髪をかき上げると缶コーヒーをテーブルに置いて、その腕の中にぎゅっと私を抱き寄せた。
「それは俺の求める『君との距離感』にしては遠すぎる。却下」
低くていい声で、耳元で囁くのは、ずるい。
「でも、本当は赤井さん、人と暮らすの苦手なんじゃないですか? だって、Jが驚いてたし。だから、そんなに無理しない方がいいと思うんです」
「Jの意見は聞いてない。君はどう思った? 俺と一緒に暮らしているとき、君との暮らしは苦手そうに見えた?」
「楽しそうでしたよ――でも、何も覚えてない人に無理して欲しくないですし」
「わかった。では、早急にもう一度君を好きになる。無理はしない。
だから、出ていくなんて言うな――言わないでほしい、頼むから」
「でも」
「Aは本当に家から出たい?」
「淋しいし怖いですよ、もちろん。でも、秀一さんが無理して、私のこと嫌いになるくらいならその方がいい――」
図々しいだろうか。
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まつり(プロフ) - わたしさん» そんなに読んでもらってるなんて嬉しすぎます!こちらこそ、読んでいただいてありがとうございますー! (12月31日 21時) (レス) id: 91a8359b9e (このIDを非表示/違反報告)
わたし(プロフ) - 本っ当に大好きで読むのも二三回目です。展開わかっていてもキュンキュンするし、まつりさんのかく沖矢昴が本当にかっこよくて理想すぎてだいすきです。なんでも出来てスマートに手を引いてくれる感じが堪らなくすきです、書いてくれてありがとうございます(;_;) (12月29日 4時) (レス) @page41 id: 2b3cd5dcd8 (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 面白くて一気に読みました!!安室さん編があるの嬉しすぎます!! (5月12日 5時) (レス) @page41 id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
まつり(プロフ) - チミさん» わあ、嬉しいコメントありがとうございます!こちらこそ、そんなに楽しんでいただけて幸せです。ありがとうございました。またの機会がありましたら、よろしくお願いします。 (2022年8月20日 21時) (レス) id: 6a01f04095 (このIDを非表示/違反報告)
チミ(プロフ) - この作品本当に本当に大好きで、毎回更新が本当に本当に楽しみで、なんと言ったらいいのか、とにかく大好きなんです!!出会えて最高でした〜〜!!素敵な作品ありがとうございます!!!!!!!! (2022年8月20日 20時) (レス) @page34 id: 5432b7d0cf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まつり | 作成日時:2022年8月17日 9時