lost14―沖矢side― ページ29
彼女を抱き上げ病室に運べば、
『お前、自分が絶対安静ってこと忘れてない? 無理してたら、せっかく閉じた傷が開くぞ』とJが呆れたようにため息をついた。
カフェオレを拾って再び彼女の傍に戻る。
『医者から絶対安静と言われて、本当に安静にしていたのはこれが初めてだ。
そもそも、日本が手厚いだけで、あっち(アメリカ)だったらとっくに病院を追い出されているはず』
『はいはい。どうでもいいが、とっととシュウに戻れよ。
その制度も心も手厚い日本の医者でも、突然VIP扱いを強要された患者に行方不明になられちゃブチ切れるぞ?』
『――ああ。
そんなことより、彼女、ひどく痛がった上に寝てしまったが大丈夫なのか?』
額に触れた感じでは熱はない。震えや痛みの兆候も見られないけれど、医者を呼ぶべきだろうか――。
『寝れてるんだから、大丈夫だろ。
誰かさんのせいで夜は泣き続けていて、寝不足なんだよ、かわいそうに。
で、思い出せないままこれからどーすんの? 親切な公安に預けるつもり?』
さきほど病室に来た降谷君は、本名と自分の立場を明らかにし、事の顛末や処分について報告してくれた。
責任を取る意味でも、今後彼女を「対象」にしたい、とも。
ただ、彼女が公安の監視対象とされると――俺の動きも監視対象にされると思うと、良い気はしない。
『本当に、彼女が俺の恋人なんだよな』
相変わらず、腹が立つほど記憶が戻らない。
誰が恋人だったか――という話ではない。
今の自分に恋人がいた、という事実そのものが今一つ受け入れがたかった。
『さあ、どうだろうね。 何かしらの心当たりがあるからわざわざAに声をかけたんじゃないの?それとも、違うって言ったら俺にくれる?』
ベッドに横たわって眠っている彼女に視線を落とす。
『こんなに素敵な子がこんな俺と一緒に居てもきっと幸せにはなれないだろうから、どこか遠くで幸せになってほしい――って願って手放したものの、それが実現するとは限らないって話でも、聞く? 彼女は今しょっちゅう泣いているし、俺はこんなに近くにいるのに彼女の頬に手を伸ばす資格すらない』
軽口しか叩かないJの声が、いつになく重く響いた。
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まつり(プロフ) - わたしさん» そんなに読んでもらってるなんて嬉しすぎます!こちらこそ、読んでいただいてありがとうございますー! (12月31日 21時) (レス) id: 91a8359b9e (このIDを非表示/違反報告)
わたし(プロフ) - 本っ当に大好きで読むのも二三回目です。展開わかっていてもキュンキュンするし、まつりさんのかく沖矢昴が本当にかっこよくて理想すぎてだいすきです。なんでも出来てスマートに手を引いてくれる感じが堪らなくすきです、書いてくれてありがとうございます(;_;) (12月29日 4時) (レス) @page41 id: 2b3cd5dcd8 (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 面白くて一気に読みました!!安室さん編があるの嬉しすぎます!! (5月12日 5時) (レス) @page41 id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
まつり(プロフ) - チミさん» わあ、嬉しいコメントありがとうございます!こちらこそ、そんなに楽しんでいただけて幸せです。ありがとうございました。またの機会がありましたら、よろしくお願いします。 (2022年8月20日 21時) (レス) id: 6a01f04095 (このIDを非表示/違反報告)
チミ(プロフ) - この作品本当に本当に大好きで、毎回更新が本当に本当に楽しみで、なんと言ったらいいのか、とにかく大好きなんです!!出会えて最高でした〜〜!!素敵な作品ありがとうございます!!!!!!!! (2022年8月20日 20時) (レス) @page34 id: 5432b7d0cf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まつり | 作成日時:2022年8月17日 9時