lost13 ページ28
「――先輩――?」
私は思わず背伸びして先輩の両頬を掌で包み込んでいた。
一瞬の後に我に返り、嫌がられたらどうしようかと思ったけれど、そんなことはなかった。
私が頬に触れて初めて泣いていることに気づいたらしく、困ったような笑みを見せそれでも私の背丈に合わせ身をかがめてくれた。
「こんなに素敵なあなたのことだけ忘れるなんて――どうかして――危ないっ」
私は急に背伸びしたせいで、お腹が痛くなってふらついてしまった。先輩は慌てて私を腕の中に抱き寄せる。
懐かしい匂いに心臓が跳ねた。
先輩は私を抱きしめるために慌ててカフェオレから手を離したのだろう。ペットボトルが床に転がった音が、静かな病棟に響く。
「病室はどこですか?」
「そこに座っていれば、多分、そのうち落ち着くんで――平気です」
「こんなに震えているのに平気と言うことはないでしょう。痛み止めは?」
「Jが保管して――」
途中まで言いかけて、そもそも彼はJのことを覚えているのかどうか不安になった。
「私の傷は大したことないから、体重を預けて構いません」
「でも……」
私にとってはいまだに大好きな人でも、彼にとって私は通りすがりについ見かけてしまった【コーヒーを眺めていた見知らぬ人】に過ぎないわけで。それに、大手術だったって聞いたよ?何の手術もしていない私がこんなに痛いのに、先輩が平気ってことはないんじゃないかな。
「あなたは泣いている私を自分の体調も顧みずに心配してくれた、素敵な人です。――嫌でなければ、病室まで運びます。私を信じてもらえませんか?」
本当は急な痛みで、立っているのは限界だった。縋りつくように身を預け病室の番号を告げると、彼はふわりと私を抱き上げた。
そうして私の顔を覗き込み、ひどくぎこちないながら、口角を上げて笑みを見せてくれたから。私は彼の胸に体を預け、意識を手放した。
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まつり(プロフ) - わたしさん» そんなに読んでもらってるなんて嬉しすぎます!こちらこそ、読んでいただいてありがとうございますー! (12月31日 21時) (レス) id: 91a8359b9e (このIDを非表示/違反報告)
わたし(プロフ) - 本っ当に大好きで読むのも二三回目です。展開わかっていてもキュンキュンするし、まつりさんのかく沖矢昴が本当にかっこよくて理想すぎてだいすきです。なんでも出来てスマートに手を引いてくれる感じが堪らなくすきです、書いてくれてありがとうございます(;_;) (12月29日 4時) (レス) @page41 id: 2b3cd5dcd8 (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 面白くて一気に読みました!!安室さん編があるの嬉しすぎます!! (5月12日 5時) (レス) @page41 id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
まつり(プロフ) - チミさん» わあ、嬉しいコメントありがとうございます!こちらこそ、そんなに楽しんでいただけて幸せです。ありがとうございました。またの機会がありましたら、よろしくお願いします。 (2022年8月20日 21時) (レス) id: 6a01f04095 (このIDを非表示/違反報告)
チミ(プロフ) - この作品本当に本当に大好きで、毎回更新が本当に本当に楽しみで、なんと言ったらいいのか、とにかく大好きなんです!!出会えて最高でした〜〜!!素敵な作品ありがとうございます!!!!!!!! (2022年8月20日 20時) (レス) @page34 id: 5432b7d0cf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まつり | 作成日時:2022年8月17日 9時